半世紀以上も変化のなかった業界に打ち込まれた楔
オーディオロジストによるチューニングという要件は、補聴器の購入・販売・普及における妨げともなっていたという。上述のCTEC記事では、市場の9割近くを占める大手補聴器メーカーについて、Tuned社CEOのGavish氏も「OTC補聴器の普及に長らく抵抗してきた」と述べている。
しかし、アメリカではFDAによるOTC補聴器規制改定が2020年に発効。音響機器のBOSE社がOTC補聴器で初めてFDA承認を取得するなど、規制緩和によって異業種からの参入が進んでいる。自分で調整できる補聴器が家電量販店やコストコで購入できるようになったのだ。
この状況を受けて、長年市場を支配してきた老舗メーカーもAI補聴器を開発するなど適応を迫られている。Gavish氏がインタビューで語ったとおり、Tunedを含むOTC補聴器企業は「過去50年間ほとんど変化のなかった業界の慣習に楔を打ち込むこと」に成功したのだろう。
両耳で平均4600ドルする処方せん補聴器に対してOTC補聴器は両耳で平均1600ドル、最低価格はなんと99ドル(National Council on Aging調べ)という安さだ。安価で入手が容易なOTC補聴器市場は、今後飛躍的な成長が見込まれている。日本では2024年から大手スターキーの最先端AI補聴器が販売開始された。超高齢化社会にもかかわらず補聴器普及率が15.2%(JapanTrak 2022調査報告)と欧米に比べて低い日本は、巨大な潜在市場に違いない。
参考元:Tuned
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Mickey Ohtsuki
危険と言われる南ア・ヨハネスブルグを拠点にアフリカ南部を飛び回って帰国後、199x年代から産業翻訳のフリーランスを始め、2000年からテクニカルライター/Webライター業も開始。世界各地のスタートアップには、ちっぽけな探求者たちが巨大な既存勢力と戦うロマンがある。『なんでも評点』筆者。
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