見えてこないテン・ハフ監督のサッカー

「これほど怪我人が多くては、やりたいサッカーなどできるわけがない」という言い分が、エリック・テン・ハフ監督にはあるかもしれない。確かにこの状態のチームを率いるのは容易でないだろう。しかしその点を考慮しても、今シーズンにおけるテン・ハフ監督の戦術には疑問が残る。

同監督は以前「アヤックス(オランダ1部のアヤックス・アムステルダム)でしていたサッカーをユナイテッドで実践することは決してない。ユナイテッドではよりダイレクトにプレイする」と語っていたが、それが体現されているようには到底思えない。GKアンドレ・オナナの獲得により向上すると思われていたビルドアップも改善の兆しが見えず、最終的にはロングボールに逃げる場面が度々見られる。これは選手の問題だけでなく根本的なビルドアップのルールが存在していないと感じる。

さらに攻撃も単調なものだ。ゴール前での積極的な崩しは見られず、セットプレーでも何かしらのデザインを仕込んでいる様子は見られない。FWアレハンドロ・ガルナチョの飛躍といったポジティブな要素はあるものの、その他のFW陣にはやや物足りなさを感じる。第33節終了時点でクラブ内得点王(リーグ戦)はMFブルーノ・フェルナンデスの8得点。チーム全体における得点力の低さが露呈するシーズンとなっている。特に10番FWマーカス・ラッシュフォードに対する要求が高まることは必然であり、現在の調子が回復しなければ来シーズン以降もスタメンを維持することはできないだろう。FW陣には明らかに競争が足りておらず、来季の移籍市場で攻撃的なプレイヤーの獲得は必須である。

クリスティアン・エリクセン 写真:Getty Images

失われつつある監督の求心力

第33節ボーンマス戦(2-2)の後、ユナイテッドファンで知られる有名YouTuberがテン・ハフ監督への批判をSNSに投稿すると、ガルナチョが「いいね」で反応し物議を醸した。その後「いいね」は取り消され問題は解決に向かったようだが、監督のマネジメントへの不安や不満が露呈した一件だったと言えるだろう。

昨2022/23シーズンに報道された、レジェンドFWクリスティアーノ・ロナウド(現アル・ナスル)とテン・ハフ監督との確執騒動は記憶に新しいことだろう。結果的にロナウドの退団にまで発展し、クラブは貴重な戦力を失ったわけだが、今シーズンも似たような問題が起きてしまった。FWジェイドン・サンチョは2023年9月上旬にメンバーを外されたことから、自身がスケープゴートにされているとテン・ハフ監督を非難。その後もこの確執問題は解決せず、サンチョは冬の移籍市場にてドイツ1部のボルシア・ドルトムントへ期限付きで移籍した。

さらに、デンマーク紙『Tipsbladet』によるとMFクリスティアン・エリクセンは監督の考えを尊重しつつも出場機会の少なさに不満を抱いているという。これについてはクラブ内で既に対話がされているようで、ロナウドやサンチョ同様の事態に発展することはなさそうだが、この状況から判断するにチーム内でテン・ハフ監督の求心力が失われつつあることは明白だろう。


FAカップ トロフィー 写真:Getty Images