ニッサンフォーミュラEチームは、3月29日、ABB FIAフォーミュラE世界選手権の「東京E-Prix」の会場でガレージ見学会を実施した。
ニッサンフォーミュラEチームは、2023/2024年シーズン10第5戦の「東京E-Prix」決勝レースで、オリバー ローランド選手が2位表彰台を獲得、サッシャ・フェネストラズ選手も11位で完走し、レース後に順位変動でポイント圏内の10位に繰り上がり、共にポイントを獲得する素晴らしい走りをみせた。
世界の市街地を中心に開催される「フォーミュラE」の理念は、既成概念をくつがえし、電気自動車のレースを通じて、高性能とサステナビリティが共存できることを示し、EVの普及を推進することだ。
すなわち、環境に配慮し、無駄な資源を極力使わないサスティナブルなレースイベントを心掛けている。
では、そんなフォーミュラEで培った技術は、どのようにして市販車に技術転用されていくのだろうか?
現在フォーミュラEのマシンは「GEN3(ジェネレーション3)」と呼ばれる第3世代目のマシンとなり、マシンの出力は世代を追うごとに向上し、出力は350kW(470馬力)、0-100km/h加速は2.5秒、最高速度は320km/hをたたき出す。対して車重は850kgと重量増加がネックとなる電気自動車において超軽量だ。
フォーミュラEで順位を大きく左右するのは、「いかにエネルギーを回収できるか」という点だ。言い換えれば「回生(Regen)」が肝となる。
バッテリーの総容量は47kWhと規定されている。フォーミュラEでは、ブレーキで約40%のエネルギーを回生しているというから驚きだ。
一般的なクルマやレーシングカーでは、クルマを止める際、摩擦力によっての制動を主とする。その場合エネルギーの多くは熱として放出してしまう。対し、フォーミュラEではブレーキシステムは備えるものの、フロントに搭載される250kWの回生用ジェネレーターと、リヤに搭載される最大350kWのパワートレインの回生によってクルマの多くを制動させ、エネルギーの回収に役立てている。
レース中に得た発生した回生エネルギーなどのデータは、そのまま市販車に転用できるかとというと、技術的に難しいようだ。だが、それをいかに噛み砕いて、コストや量産性といった量産車の制約をどう満たすかという点では、役に立っているという。
ガレージ見学会では、スタッフからステアリングの機能説明が行われた。さまざまな情報を映し出すモニタ、チームとの無線ボタン、バッテリー量の調整など多機能だが、回生ブレーキの設定も事細かに操作することができる。
ステアリング裏のパドルを操作することで、時にドライバーは、クルマを空走状態にして電費を稼いだり(リフトアンドコーストと呼ばれるワザだ)、また違う場面ではパドルを引いて、回生ブレーキ量を強め、エネルギーをより効率的に回収する。
ドライバーに聞くところによると、回生ブレーキの使い方によっては、まるでABS(アンチロック・ブレーキ・システム)がついているかのように、よりロック率の少ない協力なブレーキングが可能だという。
筆者はフォーミュラEには乗ったことはないので、その乗り味は想像するしかないが、エネルギー回生の説明を聞いていて、新しいモビリティの操縦方法なんだな、という印象を強く受けた。
日産の市販車には「e-Pedal Step」と呼ばれるワンペダルで加減速が可能な機能が用意されているが、強力な回生エネルギーを体感できる点では、もしかしたら近いのかもしれない。ブレーキから発生しているダストが減る点でも、環境に与える粒子汚染を防ぐ効果もあるだろう。
フォーミュラEの特徴として、駆動音による未来感あふれるサウンドが挙げられる。飛行機が離着陸する音や電車のインバータ音に似ているが、実際の音はもっと澄んでいる。
日産は、先日発表された日産アリアNISMOに、フォーミュラEからインスピレーションを得た作動音が室内に聞こえる「NISMO専用EVサウンド※」を備えた。
※NISMO専用BOSE Premium Sound System&10スピーカー付き車に装備
「NISMO専用EVサウンド」は、走行モードを「NISMOモード」選択時に、加速する際に素早く立ち上がる高音によって、車内に高揚感をもたらし、減速時は沈み込むような低音の回生サウンドが体感できるNISMO専用EVサウンドシステムだ。
日産アリアNISMOのNISMO専用EVサウンドは、減速時にあえて、機械の作動音の様にわざと時間差を設けて減速感を表現するなど、開発者たちがこだわった部分の一つだ。
EVにおいて、音の表現は多種多様だ。アバルト500eは、マフラー付近から排気音にも似た音を出す表現をしているし、ヒョンデのスポーツモデルにいたっては、内燃機関のようなサウンドをドライバーに提供する。現在各メーカーも、まだ方向性を掴んでおらず、何がよいのか試行錯誤して、色々な表現手段をためしている状況だ。
フォーミュラEで使用されるタイヤは、現在ハンコックのiONが使用される。このタイヤは持続可能な素材が全体の28%に使用され、ウェットからドライ、高温から低温、およびあらゆる条件で使用できるタイヤとして開発された。
以前、日産ARIYA NISMOの開発部門に取材したことがあるのだが、FormulaEからの最も大きなフィードバッグは何かと尋ねた際、開発者は「タイヤ」と答えてくれた。
最もレースにおいて重要となるタイヤ。レーシング用の溝なしのスリックタイヤではなく、あえて市販車のタイヤに近い形と性能をしたタイヤでレースを繰り広げることによって、市販車にいかせるノウハウが蓄積されていくという。
ARIYA NISMOに装着される専用開発のミシュランパイロットスポーツEVも、FormulaEでの開発を軸として生まれた経緯がある。
2026-2027シーズンからは、ブリヂストンが、ABB FIAフォーミュラE世界選手権の単独タイヤサプライヤーに選定されたことが決定している。
大手メーカーを惹きつける”走る実験室”としての魅力があるフォーミュラE。今後の行方も気になるところだ。
提供元・CAR and DRIVER
【関連記事】
・「新世代日産」e-POWER搭載の代表2モデル。新型ノートとキックス、トータルではどうなのか
・最近よく見かける新型メルセデスGクラス、その本命G350dの気になるパワフルフィール
・コンパクトSUV特集:全長3995mm/小さくて安い。最近、良く見かけるトヨタ・ライズに乗ってみた
・2020年の国内新車販売で10万台以上を達成した7モデルとは何か
・Jeepグランドチェロキー初の3列シート仕様が米国デビュ