ユーザーの感覚と、実際の構造に乖離

 トヨタ系ディーラーということで信頼している顧客も多いと考えられるが、なぜ信用力の高い大手自動車系のディーラーでこのような事態が起きたのか。

「信頼性の高いディーラーだからこそやってしまえる、という点です。今回の例ですと、メーカーが指定する特殊なクリア塗料(傷への耐性が高く、修復特性の優れた塗料)を、安物のクリア塗料にランクダウンして利益を増していたわけですよね。メーカーが自社の商品力を誇るために欠かすことのできない、質感クオリティに関わるクリア塗装を、まさかメーカー直結のディーラーがランクダウンさせるなんて思いもしませんよね。町工場での修理ならいざ知らず、自社の商品の質をメーカーの顔となるディーラー自らが落とすわけですから。そこまでして利益を出さないといけなかったディーラーも悲惨だなと思いますが、一方で提携の鈑金工場の首が回らなくなると困るのは元請けのディーラーですから、お互いを存続させるための苦肉の策だったのかもしれません。こんな話は、一般的なユーザーが知るよしもない部分なので、信頼しきっているディーラーがまさか、というところが大きな落とし穴だったわけです。

 整備士も鈑金職人も年々なり手が減る一方で、提携工場が欠けるとディーラーはたちまち困るのが目に見えています。違う視点から見ると、ディーラーではなく鈑金工場にユーザーが直接修理を依頼して同じことが起こるかといえば、確率はかなり下がると思います。職人のプライドもさることながら、塗料の質を変えることで仕上がりや数年後のコンディションが異なることはユーザー以上に職人のほうが知っていますから、よほどのことがない限り、あえてランクダウンなんてことはしないのではないでしょうか。それに、ディーラーの下請けで通常の半値で仕事をさせられているのに、ユーザーには正規の値段で請求しても、『ディーラーより安くてキレイに直してくれてありがとう』と言われるのですから。

 メーカーの看板を掲げているディーラーだからすべてにおいて信頼できる、と考えるユーザーの感覚と、実際の構造に乖離があるという点が、こうした事例の問題点だと思われます。見た目はまったく同じようなディーラーでも、運営する会社の考え方でユーザーへの対応や仕事の質は大きく異なるということに、メーカーもユーザーも気付かなければいけません。古いクルマに乗って行っても、『弊社のクルマを大切にしていただいてありがとうございます』というディーラーもあれば、『なんでこんな古いクルマに乗られてるんですか? 新しいのに乗り代えてくださいよ』というディーラーもあります。メーカーはこういったディーラー間の対応の差を埋めるために、どこを向いて商売をしているのかという基本の基本を改めて指導していくべきではないでしょうし、メーカー自身も自分の胸に手を当てて考えることが、必要なのではないでしょうか」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)

提供元・Business Journal

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