なお、ダーウィンの進化論は現在、多くの問題点があることが指摘されている。例えば、古い種と進化して出てきた新しい種を結ぶ中間種が見つかっていないこと、カンブリア爆発と呼ばれる5億4200万年前から4億8800万年前、生物の種類が1万種から30万種へ突然増加していることへの説明がないことだ。ただし、人類は神が直接創造した存在ではなく、悠久な歴史的プロセスを経て進化してきたという考えが定着していった。厳密にいえば、神の創造説と進化論は決して矛盾するものではないが、「進化」という魔法の表現が多くの分野でその影響を与えていったわけだ。

3回目の侮辱は、ユダヤ人の精神分析学者フロイトが無意識の世界を解明したことだ。人間は意識の他に、人間の言動を支配している「無意識」が存在し、人間は無意識によって操られているというリビドー理論を提唱した。人間は自分で考え、判断して行動していると考えてきたが、実際は無意識によって動かされているケースが多いことが判明したわけだ。フロイトは著書の中で「人間は自分のハウスの主人ではなかった」と表現している(心理学的侮辱)。

地動説、進化論、そして無意識の世界・・科学史の中でも画期的な業績であり、それらの内容が発表、公表された時、大きな波紋や困惑が生じてきたことは周知の事実だ。科学は本来、宗教と対立するものではないが、特に、欧州の中世時代、キリスト教会の世界観が全ての分野を支配していた時代、新しい科学的発見は宗教界から激しい抵抗に直面せざるを得なかった(「フロイトは『魂』の考古学者だった」2019年9月26日参考)。

21世紀の今日、神がアダムとエバを創造したように、人類は自身をコピーして人工知能(AI)を開発し、第2の人類を生み出してきた。AIの出現は人類にさらに大きな幸福をもたらすか、AIが主人の座を奪うことになるかは現時点では不明だが、人類は漠然とした不安を感じ出してきた。ちなみに、ドイツの哲学者ヨハネス・ローベック氏は1993年、人類が自ら作り出したものに支配されている現象を「技術的侮辱」と呼んでいる(「『神は愛なり』を如何に実証するか」2021年4月10日参考)。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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