「待ってるよ」が支えに

ー手術が終わり、リハビリ生活に入りました。「与えられたタスクをこなすだけの日々で、気持ちは上の空だった」と過去のインタビューで仰っていましたが、一体何が栗島選手をそのような気持ちにさせたのでしょう。

栗島:前十字靭帯を断裂すると、長い期間リハビリしないと競技復帰できない。自分は復帰まで1年でしたけど、何年もかかる場合もあります。すぐに復帰できないのは分かっていましたし、1回目の苦労(リハビリ)も覚えていたので。受傷日から手術日まで時間が無かったので、心の整理がついていなかった部分もありますね。

リハビリも最初は地味なこと(トレーニング)しかできないですし、みんな(チームメイト)は試合をこなしているのに、自分はサッカーをできない。その代わりに長いリハビリが待っているということで、気持ちが入らない。このときは本当に上の空という感じでしたね。

ーそうした状況下で栗島選手の心の拠り所になったもの、支えになったものは何でしたか。

栗島:家族はもちろん、そしてチームメイトですね。松葉杖で歩けるようになった頃、長船加奈選手とか高橋はな選手とか……。いろいろな選手が私のところに来てくれましたし、元気づけてくれましたね。チームメイトのみんなと会うと、本当にテンションが上がります。みんなに会って元気をもらいながら、リハビリをこなしていました。

ー会いにきてくれるだけでも、栗島選手にとって支えになったと思います。チームメイトがかけてくれた言葉で一番嬉しかったもの、支えになったものは何でしたか。

栗島:何年も前のことなので忘れましたけど(笑)、「待ってるよ」とみんな言ってくれましたね。待ってくれている人がいるという事実だけで、自分のサッカー人生終わっていないなと思えましたし、待ってくれている人がいる限り自分は頑張らなきゃいけないとも思いました。

ーそうした大変な状況のなかでも、地味なタスクをしっかりこなせる。人としての強さが感じられるこの栗島選手のパーソナリティーを、私は魅力に感じます。

栗島:1回目のリハビリで、やるべきことをやらないと復帰できないのは分かっていました。若い頃は何も考えずにできたことも、年をとっていろいろな経験をしたことで逆に怖くなった部分はありましたね。逆に言えば(地味なトレーニングを)やっていけば大丈夫というのは知っていたので、ひとつずつこなせたのだと思います。

ー強さとは、メンタルが揺れ動かないことではない。揺れ動いたなかでもやるべきことをやれるのが真の強さだと、私は栗島選手から学びました。

栗島:本当にそう思います。気持ちが上の空のときもありましたけど、やるべきことは変わらないですし、やらない限り競技復帰できる未来はないので。どんな状況でも、やるべきことをまずやる。心が付いてこないときもありますけど、そのときはそんな自分を認めてやるしかない。やるべきことは必ずやるようにしていました。


栗島朱里 写真:©URAWA REDS