運命が変わったINAC神戸戦

ー「この怪我から学んだことを言語化するのは難しい」「この怪我に意味があったと思いたいし、意味あるものにするのは自分自身」と過去のインタビューで仰っていましたね。このコメントは栗島選手が公式戦復帰されて間もない、2022年12月時点のものです。復帰されて1年以上経った今だからこそ、導き出せる答えはありますか。

栗島:あの怪我には意味があったと思いますし、意味あるものにしようと今も努力しているつもりです。

復帰してから人とぶつかるのが(接触プレーが)怖くて、これが最近まで続いたのですが、ウィンターブレイク明けのINAC神戸戦(今年3月3日)から自分のなかで感覚が変わりました。それまでは(なるべく他の選手と)ぶつからないようにプレーしていて、(時が経つにつれ)自分のなかで怖さが無くなってきたと思っていたんですけど、潜在的に怖がっている部分がありましたね。自分ではもう怖くないと思っていても、いざそのプレーになると人に強く当たれないという状況が続きました。

怖くないと思っていても、体がその状況(接触プレー)を避けるようになっている。どうすればこれを改善できるのか。これについては本当に最近まで悩みましたし、試行錯誤してきました。

何がきっかけかは分からないですけど、INAC神戸戦はなぜか全然緊張しませんでしたね。ウィンターブレイク中の沖縄合宿で練習試合を重ねたのもありましたし、自分の近くでプレーしている柴田選手、伊藤選手、塩越選手とも阿吽の呼吸が成り立っていて。この人がそのポジショニングなら、自分はここに立つというように、みんながバランスをとってくれる。自分の近くには、こんなにも心強い仲間がいると思えました。

自分でボールを奪いきれなくても、自分が相手選手の体勢を崩してルーズボール(こぼれ球)にできれば、それを柴田選手や伊藤選手が拾ってくれる。こうした背景があり、本当の意味で接触プレーが怖くなくなった。それが3月3日の神戸戦でした。

ー今お話しいただいた内容も然ることながら、3月3日のINAC神戸戦では栗島選手のポジショニングが的確で、浦和を救っていましたよね。あの試合の浦和の同点ゴール(FW清家貴子のゴール)は、味方センターバックとサイドバックの間に立ち、相手チームを混乱させた栗島選手を起点とするパス回しからでした。攻撃時に栗島選手がここに立つことで、右サイドバックの遠藤優選手も高い位置をとれましたね。自分がどう動けば味方が助かり、相手が困るか。栗島選手のこの洞察は素晴らしいと思います。

栗島:あの試合は良い意味で、深く考えずにプレーできましたね。相手の立ち位置がこうだから、自分がここに立ったら(相手が)嫌がるかなと、何となく思っていました。考えすぎてもサッカーは難しいですし、自分の調子が悪いときは考えすぎているとき。あのINAC神戸戦は怪我する前の感覚でプレーできた気がします。

左から塩越柚歩、長嶋玲奈、石川璃音、栗島朱里 写真:©URAWA REDS