季節の変わり目の3月。ブエノスアイレスは夏が終わり、雨の多い秋を過ごしています。この長い雨が終わる頃、季節はすっかり変わって涼しい日々がやってくるでしょう。
今回は、日本でも話題に上がっているアルゼンチンの200%超えのインフレについてご紹介します。友人・知人から「ニュースでインフレが大変だって見たよ〜」というコメントを頂いたので、実際に住んでいる状況や観光にどう影響するのかをお伝えしたいと思います。
物価が上昇するとどうなるのか
日本でも「最近、物価が上がった」といわれていますよね。実際、日本の物価上昇率は前年同月比4.3%の上昇(2023年5月分)。この指標は、第2次オイルショックの影響があった1981年6月以降、41年11ヶ月ぶりだそうです。
では、物価が上昇するとどうなるのでしょうか。
1. 購買力の低下
- 物価が上がると、以前と同じ金額で商品やサービスが購入できません
- 同じ額の収入では、生活必需品が購入できなくなり、購買力が低下
- 買わない、もしくは品質を落として安価なものを購入します
2. 生活費の上昇
物価上昇により、食料品や住居費、医療費などの生活必需品の価格が上昇します
- つまり、生活費が増加し家計への負担が増えます
3. 金利の変動
- 中央銀行は物価上昇を抑制するために金利を引き上げることがあります
- 貸出金利は上昇し、借入コストが高くなります
4. 投資と経済成長への影響
- 物価上昇が持続すると、消費を抑制し、企業の利益を圧迫します。これが続くと、投資活動が減少し、経済成長が滞る可能性があります。
つまり、物価上昇率の上昇は経済全体に影響を与え、消費者や企業、政府など多くの関係者に影響があります。
このような教科書に書いてあるような情報はわかっていても、実際どうなの?という方のために、2023年ついにブッチギリの世界第一位消費者物価上昇率を出してしまったアルゼンチン共和国より、その生活ぶりをご紹介します。
アルゼンチンの物価上昇の状況
アルゼンチンのインフレについて皆さんの周りでも話題になっているでしょうか?
アルゼンチン共和国では、2023年12月インフレ率200%を突破し、前年同月比211.4%。200%を超える上昇はアルゼンチンでも32年ぶり。1年間で物価が3倍も上昇しています。
日本の上昇率は1桁ですが、アルゼンチンでは3桁です。つまり、日本とは次元がまったく違うインフレがこの国では起こっています。
私がアルゼンチンに来た2016年には、すでにこの国はインフレが激しく、それが当たり前の生活でした。実際にアルゼンチンで生活していると、スーパーに行くたびに値段が上がっているので支払いの際にドキドキはするものの、その中にいるとなんとなく生活はできるものです。
もちろん、購入品を控えたり贅沢しないようにはなりますが、我が家の場合、今のところ飢えて死にそうになるほどではありません。
これまで、毎週日曜日に家族が集まり開催されていたアサードは、月1回程度に頻度が減少。家族は集まりますが、アサードではなくパスタを食べるだけで、生活のリズムは変わりません。
私が日本人ということもあり、日々日本食をいただくことが多いですが、値段が高めの日本食スーパーに足を運ぶ頻度は、月1から隔月に変更。高級品である鮮魚が買いづらくなりました。
先日、お米を買おうとすると、一年前と金額の桁数が変わっていることに驚きました。2023年1月1600ペソだった5kgの日本人向けの米は、2024年1月に16200ペソ。2023年の米の収穫が不作だったこともあり、それ以降も米の値段はますます上昇中です。
商品価格が上昇する中、どうやって生活しているの?(我が家の場合)
私の主人は、アルゼンチンの会社員です。お給料はアルゼンチンペソでもらってきます。こんなに価格が上昇して、どうやって生活しているの?とよく聞かれます。
給料はどうなっているの?
我が家の場合、お給料はインフレ率に比例しないものの、上昇に合わせて金額が上がります。しかし、急激に上がった次月にすぐ給料を上げてくれるわけではなく、決まった月にそれまでの上昇率を考慮して上がります。よって、実際に手元にお金が入るときは何ヶ月か前の上昇率で計算された金額になります。困窮するほどではありませんが、家計を回す身としては厳しいというのが本音です。
アルゼンチンペソは持ってていいの?
価値が日々下がって行くアルゼンチンペソですが、それでも国内の消費はペソで成り立っています。野菜を買ったり、お肉を買ったり、パンを買ったり、キヨスコ(売店のような)でジュースを買ったりするのはペソで支払うため、必要です。
レストランも外国人が出入りする観光向きでなければ、ペソでなくては支払えない場所もあります。外国人は、ドルやユーロをペソに両替して使用しています。
現金(アルゼンチンペソ)は持っているの?
我が家の場合は、主人が口座から現金を出金し、私に毎週渡してくれます。ただ、ATMは引き出す金額の上限が低く設定されているため、多くを引き出せません。銀行やATMにもよりますが、我が家がよく利用するATMの上限は日本円で8,000円程度。必要な場合は何度も引き出しますが、その都度手数料がかかります。
スーパーや薬局でデビットカードから出金してもらったり、仲間と食事に行った際にまとめてカード払いにして、友人から現金を回収したり、と現金を確保します。最近は電子決済も主流になってきましたが、南米を牛耳るマーケットプレイスのメルカド・リブレが運営するメルカド・パゴは、日本のiPhone だとアプリをダウンロードしにくいのが難点です。
買い物はできるの?
毎週1回、スーパーで私は買い物をしています。商品棚から商品が消えることはありませんが、有名なメーカーの商品が商品棚に出ず、無名のメーカーの商品に入れ替わることはよくあります。
金額がコロコロ変わるので、販売側から調整が入り商品が出回らないそう。お気に入りの商品は、特売日に買いだめしたり、欲しいものがなければ買わない等マイルールが必要です。
究極な話、パンとハムとチーズがあれば生きていけるのがアルゼンチン人。加えて、肥沃な大地のおかげで野菜と果物は豊富にあるので、飢え死ぬことは無さそうです。
極端な世界のアルゼンチン
アルゼンチンは貧富の差が非常に激しい国です。ブエノスアイレスは、アルゼンチンの首都であるとともに南米屈指の大都会です。ブエノスアイレスの街の中にももちろん貧富の差はありますが、この華やかな自治区を一歩外に出ると、場所によってはゴミの山の中で暮らす人や、作りかけのレンガの家で暮らす人もたくさんいます。
アルゼンチンの貧困率は2024年1月に57.4%になりました。(アルゼンチン・カトリック大学(UCA)の調査報告参照)
しかし、国内、全てが貧しいわけではありません。先日、近所の高級高層マンションにフェラーリが納品されていました。貧しい生活する人がいる一方で、このような状況でも高級車を複数台持ち、都心と田舎の両方の家を行き来して優雅に暮らす富裕層も存在するのです。
旅行者への影響
こんなアルゼンチンですが、コロナ後に旅行者は戻ってきて活気を取り戻しています。どのくらい滞在するかによってインフレの影響の受け方は変わりますが、期間が決まった状態でハイパーインフレのアルゼンチンを体験するのは良い経験になるかもしれません。
両替
アルゼンチンの場合、ドル、もしくはユーロとの両替になり、日本円からはまずアメリカドル(もしくはユーロ)に両替して、それからアルゼンチンペソに両替するため、ダブルで手数料がかかります。
ただ、カードを使うとカード利用手数料を支払側が負担する場合が多いので割高。100ドル(USドル)札を持って来て、ペソに両替してお買い物するのが一番得です。
宿泊
宿泊施設は、安全を考慮すればそれなりの立地の良い物件を選ぶことが重要です。価格帯は東京並みの値段になってきています。
1ヶ月400USドルから800USドル程度のレンタル料のお部屋であれば、日本人の女性が1人で暮らせる程度(利便性・衛生的・安全性)のお部屋が借りられます。東京とそう変わらない値段です。
食事
食事は、自炊するとだいぶ安く感じると思います。レストランは、安いお店もあれば高いお店もあります。しかし、日本のコンビニや吉牛のようにコスパの良い店はあまりありません。
衣類
洋服などの衣類は、生地の質が悪く価格は高いので、日本のファストファッションがいかに優秀であるかに改めて気がつくかもしれません。ZARAなどの海外製品は関税が高く、高級品扱いでファストファッションに該当しません。
治安
治安については、インフレ率の跳ね上がりと共に悪くなったと感じます。しかし、気をつけ方次第。治安が悪くなったからといって必ず事件に巻き込まれるわけではありません。情報や状況の把握と対処方法を知っていれば、ある程度は安心して過ごせます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
日本に住んでいる頃は、インフレの国ってどうなってしまうの?と不安だったのですが、私の場合は住めば都、住めなくもない状況でした。もちろん、国内は深刻な状況であるのも事実です。
旅行の1つの目的として、その国の現状や変化過程を学ぶことも大切です。良い時もあれば、悪い時もある。歴史を刻むさまざまな状況を自分の目で見て体験することも旅の醍醐味の1つではないでしょうか。
2023年に就任した新大統領のミレイ氏が行う政策がどのようにこのハイパーインフレに作用して行くのか、今後の動向が楽しみです。
文・写真・AKANE/提供元・たびこふれ
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