欧米諸国で中絶の是非論が活発化してきた。中絶論争に火を付けたのはフランスだ。国際女性デーの3月8日、フランスは女性が自由意志に基づいて人工妊娠中絶を決める権利があることを憲法の中に明記することになった。女性の中絶の権利を憲法の中に記述するのは世界で初めてのことだ。

当方宅のベランダで花咲かすぺラルゴ二ウム(2024年4月13日、ウィーンで撮影)

マクロン大統領はイスラム教の教祖ムハンマドを「冒涜する権利」があると豪語し、世界のイスラム教国からブーイングが飛び出したことはまだ記憶に新しい。そのマクロン大統領が今度は「女性には中絶する権利がある」と主張しているわけだ。同大統領は女性の中絶の権利を欧州連合(EU)の憲法に当たる「基本権憲章」に明記することを目指している。同大統領は2022年1月、フランスEU理事会議長就任の冒頭で、中絶へのアクセスを憲章に明記する意向を発表して話題を呼んだ。

ちなみに、EU議会は8日、女性の中絶の権利を欧州基本権憲章に明記することに賛成の立場を表明した。具体的には、女性の中絶の権利を明記した決議案に対して、賛成336人、反対163人、棄権39人だった。同決議案では、欧州議会はEU加盟国に対し、身体的自己決定の権利と、安全で合法な中絶を含む性と生殖に関する健康への自由、十分な情報に基づいた完全かつ普遍的なアクセス等を基本的権利憲章に盛り込むよう求めている。

この提案は、社会民主党、自由党、緑の党、左翼の議員のほか、欧州人民党(EPP)の保守系キリスト教民主派に所属するスウェーデン国会議員の一部によって提案された。キリスト教民主党EPPの議員43人は中絶に対する基本的権利に賛成票を投じた。70人が反対、11人が棄権した。

一方、ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁は欧州基本権憲章に中絶の権利を盛り込むべきというEU議会の決定を「イデオロギー的」で「後ろ向きな決定だ」と批判している。

教皇庁生命アカデミー会長のヴィンチェンツォ・パリア大司教(Vincenzo Paglia)は「文化的、社会的観点から見ると、この決定が胎児の権利を考慮していないことは非常に憂慮すべきことだ。胎児はより弱く、話すことができず、何も要求することができない。胎児と女性の両方の当事者の中で、一方の当事者のみに権利を要求するのは間違った決定だ。中絶の権利は女性に必要な支援を損なうことにもなる。欧州議会の決定は女性の権利の前進ではなく後退を意味する」と述べている。