様々な分野でデジタル化が進む中、銀行でもデジタル通帳が主流になりつつある。それに伴い、紙通帳を発行すると手数料がかかるようになった。紙通帳の有料化だ。ここでは、紙通帳の有料化事例について紹介すると共に、今後の紙通帳の未来について解説する。

新規口座では通帳発行等が有料に

紙通帳には銀行にとって「コストがかかる」という決定的なデメリットがある。印刷費や管理費がかかるだけでなく、200円の印紙税が必要なので、全体で見るとかなりのコストになるだろう。

現在、三大メガバンクでは、いずれも通帳の新規発行に手数料が必要となっている。通帳作成時期や口座名義人の年齢などにより詳細が異なるので、それぞれ紹介しよう。

みずほ銀行

みずほ銀行では、2021年1月18日以降の口座開設分について、通帳の新規発行と繰り越しに1冊あたり1,100円(税込)の手数料が必要となる。 同行では、通帳発行・繰り越し手数料の導入と同時に、通帳を発行しないウェブ口座「みずほe-口座」を提供している。紙の通帳にこだわらないなら、こちらへの切り替えを検討してみてはいかがだろうか。なお、取引明細を確認したいなら、通帳の代わりになる「みずほダイレクト通帳」も併せて申し込んでおこう。

三菱UFJ銀行

三菱UFJ銀行では、2022年4月1日以降に開設された普通預金口座について、「紙通帳利用手数料」として年間550円(税込)の支払いが必要となる。ただし、18歳未満もしくは70歳以上の個人は手数料不要。また、ウェブ通帳「Eco通帳」を利用する場合も手数料は不要だ。切り替えた場合、以下の特典が受けられるので積極的に検討してみよう。

● 同行ATM時間外手数料が回数無制限で無料
● 提携先コンビニATM手数料が毎月1回まで無料
● 「三菱UFJダイレクト」での他行あて振込手数料が毎月1回まで無料

三井住友銀行

三井住友銀行では、2021年4月1日以降に開設された個人の普通預金口座について、紙の通帳の利用には年間550円(税込)の手数料が必要となる。ただし、18歳未満もしくは75歳以上の個人の手数料は不要。また、非居住者(生活の本拠地が1年以上国外にある人)も手数料は不要となる。

「Web通帳」にも手数料はかからない。2019年以降ではあるが、30年間ずっと明細を確認できるため、これから取引が増えるであろう新社会人や学生にもおすすめだ。

いずれの銀行でも新規に発行された紙の通帳には手数料がかかってしまうので、これから口座を作る人はウェブ通帳を選択すべきだろう。 なお、メガバンクだけでなく地銀でも通帳発行手数料の導入が進んでいる。たとえば、横浜銀行、千葉銀行、武蔵野銀行では、通帳発行時と繰り越し時に1,100円(税込)の手数料がかかる。ただし、武蔵野銀行においては当面繰り越し時の手数料は免除となる。

紙通帳にはメリットもあった

紙通帳にもメリットがあった。例えば、通帳記入した状態で保管しておけば半永久的に確認することができる。「いつ、何のために入出金したのか」というメモ代わりに使っていた人もいるだろう。

しかし、ATMに行って通帳記帳をしなければ口座の引き落としや入金があったかわからない、通帳自体が紛失や盗難の憂き目に遭うとなどの点に注意しなくてはいけなかった。

今後の紙通帳の未来

「紙の通帳”はなくなってしまうのか」という疑問に対する答えは、「将来的にはなくなるのではないか」といったところだ。事実、紙の通帳を知らない人、こだわらない人は増えていっている。

例えば、三井住友銀行の公式サイトを確認すると、2022年7月時点で約600万人がデジタル通帳を利用しているようだ。加えて、デジタル通帳の利用が進むことで地方銀行の衰退も予想される。これまでは紙通帳だったため銀行の店舗に行かないと入出金の確認や残高照会ができなかったが、デジタル通帳であればその必要が無くなる。ローンや振り込み、取引明細の確認もデジタル通帳ですべてできてしまうので、極端な話、どこにいても資産管理ができる。その結果、デジタル化に成功したメガバンクを中心とした銀行だけが生き残り、地方銀行は衰退していくなど、社会が大きく変わるかもしれない。

もちろん、地方銀行も手をこまねいているわけではなく、地域密着でありながらもデジタル化に取り組んでいる。例えば、福岡銀行を中心とする金融グループ・ふくおかフィナンシャルグループの「みんなの銀行」は、24時間365日即時の口座開設、通帳レス・カードレスでの取引などの利便性をうたうスマホ銀行だ。10代~30代のいわゆる「デジタルネイティブ世代」がユーザーの7割を占め、東京・大阪・神奈川・愛知など九州圏以外に住む利用者も多いなど、従来の地方銀行の枠を飛び越えてサービスを提供しているのは非常に画期的だろう。

口座の管理を見直す良い機会かも

紙の通帳がなくなる未来はそう遠くない。手数料を取られるのはもったいないので、銀行口座の管理を見直す契機と捉えるのはどうだろうか。

基本的に、異なる銀行間であれば1人で複数の口座を開設することができるが、管理の手間を考えると現実的には3つ程度に抑えておきたい。1つの提案としては「生活費用」「貯蓄用」「緊急時用」として異なる銀行の口座を使い分けると良いだろう。つまり、給与など収入が入ってくる口座を「生活費用」とし、そこから毎月一定額を「貯蓄用」「緊急時用」の口座に振り分けていけば、無理なく貯蓄ができ、緊急時にも備えられる。一部の銀行では毎月一定額を別の銀行口座に送金してくれる「自動入金サービス」を行っているので、上手に利用すると良いだろう。

文・荒井美亜(金融ライター/ファイナンシャル・プランナー)
立教大学大学院経済学研究科を修了(会計学修士)。税理士事務所、一般企業等の経理を経験して現在は金融マネー系ライターとして活動中。日本FP協会の消費者向けイベントにも講師として登壇経験あり。