食物アレルギーへの関心は、世界中で年々高まっている。米国の市場調査レポートプロバイダー・Future Market Insightsによると、食物アレルギーの世界市場の評価額は、2023年に398億3,000万米ドルに達し、2033年末には661億5,000万米ドルに達すると予測されている。

なお2018年から2022年にわたる食物アレルギーの年平均成長率は4.8%にまで成長し、2033年末には年平均成長率5.2%となる見込みである。

Image Credit:Food Allergy Research & Education

また、米国の食物アレルギー専門NPO法人・Food Allergy Research & Educationからも興味深いレポートが出ている。なんと米国では、約3,300万人もの人々が何らかの食物アレルギーを持ち、そのうち、大人では51%、子どもの42%が重度の食物アレルギー反応に苦しんだ経験があるという。

さらに驚くことに、アナフィラキシー食物反応と診断された事例は2007年から2016年にかけて377%も増加したとのデータもある。

こうした食物アレルギー市場におけるニーズの高まりから、世界中で同分野に参入する新興企業が増加している。その1社が、2016年に設立されたフードテックのスタートアップUkkoだ。イスラエル・テルアビブと米国カリフォルニア州パロアルトにオフィスを構え、食品アレルギーのある人でも安心して食べられるグルテンを開発している。

食物アレルギーの改善に挑むUkko

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Ukkoは、食物アレルギーや過敏症と闘う人々の生活を改善することをミッションとしている。

同社によると、食物アレルギーやグルテン関連の疾患は年々増加傾向にある。例えば、セリアック病(グルテン不耐症)の新規患者は15年ごとに倍増しており、さらに米国では子どもの13人に1人が食物アレルギーを持つという。

このようなデータから、同社では食物アレルギーや過敏症が人々に対して、社会的、健康的、経済的に大きな影響を及ぼしていると捉えている。

そもそもセリアック病とは何か。医学事典のMSDマニュアルでは、セリアック病について「小麦や大麦、ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する遺伝性の不耐症であり、小腸の粘膜に特徴的な変化を起こし、 吸収不良が生じます」と記されている。

また、同マニュアルによると、通常セリアック病は北欧系の人にみられることが多く、欧州(特にアイルランドとイタリア)では150人に1人、米国の一部の地域では250人に1人(想定)にセリアック病がみられるものの、アフリカ、日本、中国でみられるのは極まれだという。

このことから、日本では元より疾患者数が比較的少ないために社会的な注目度もそれほど高くないが、欧米圏におけるニーズは非常に高いことが読み取れる。現に、欧米諸国では「グルテンフリー」を謳った食品やレストラン・カフェが至るところにあり、グルテンに対する意識の高さが伺えることが多い。

Image Credit:Ukko

このようなグルテンフリーのニーズから、Ukkoは、タンパク質の改善そのものに着目し、免疫学、機械学習、タンパク質工学を用いて、食品や治療薬に使用可能な安全性の高いタンパク質を開発・製造するに至った。

さらに、同社は計算工学プラットフォームによって食物アレルゲンを再設計し、安全で効果的な治療薬までも開発した。

同社の取り組みは、計算生物学に深く根ざしている。AIを活用し、アレルゲンであるタンパク質と免疫系の間の分子がどのように相互作用するかを分析し、免疫反応を引き起こすタンパク質の特異的な特性を突き止める。

そして、タンパク質が持つ味、栄養価などの“優れた特性”を残しつつ、免疫反応を引き起こさない最良のデザインを導き出すのである。