経済発展とライフスタイルの変化により、生活習慣病が深刻な社会問題となったインド。糖尿病の患者数は中国に次ぐ世界第2位8800万人という規模になっている。

しかしインドの医療インフラは質・量ともに乏しい状況で、人口当たりの病床数は日本の10分の1以下。人口1万人あたりの現役医師数は約6人、看護師・助産師数は約10人で、WHOの基準である人口1万人あたりの医療従事者数44.5人を大きく下回っている。

現役医療従事者の大半が適切な資格を有していないという実態があり、医師や看護師の水準は先進国と同程度とは言い難い。

Image Credits:Dozee

まさにこの問題に取り組む2015年設立のスタートアップDozeeは、AI搭載の非接触型モニタリングシステムを展開する医療機器メーカーだ。

インド医療を悩ませる人手不足と品質不足をAI搭載センサーで解決

Dozeeの製品はバリストカルジオグラフィー(心弾動図記録法)に基づくもの。寝返りなどのマクロな動きとミクロな動きの両方から生じる機械的振動を用いて心肺機能などを観察する。

Image Credits:Dozee

マットレスの下に置かれたシート状のセンサーが心拍数、呼吸数、体温、酸素飽和度、ECGなどの患者の重要パラメータを追跡する。捕捉したデータはセキュリティで守られたクラウドに送られ、AIアルゴリズムによってバイオマーカーに変換される。処理後のバイタル情報はSecureRPMアプリでアクセス可能という仕組みだ。

Image Credits:Dozee

こうしたセンサーはウェアラブルや貼り付け式など、従来は接触式のアプローチが取られてきたが、患者の精神的・身体的負担を軽減するうえでは非接触式が望ましい。Dozeeの共同設立者たちも、初めは接触型センサーを開発していたのだが、自分たちの技術は非接触でも機能すると、“愛犬”のおかげで気づいたという。

非接触型のアイデアは愛犬のいたずら対策から誕生

Dozee社はMudit Dandwate氏とGaurav Parchani氏によって、「ヘルスケアをよりアクセスしやすく、手頃な価格にすることでヘルスケア分野のイノベーションを推進する」という使命のもと、2015年に設立された。

設立当初はマットレスの上に敷くセンサーシートの開発に取り組んでいた創業者2人だが、2016年にプロトタイプ完成を記念して祝杯を挙げようとした夜のこと。当時6か月だった愛犬Piがシートにいたずらして破ってしまわないよう、マットレスの上ではなく下に隠して外出したという。帰ってくるとPiはマットレスの上で眠っていたが、接触していないはずのセンサーがPiの体の動きに反応していたのだ。

Image Credits:Dozee社のX投稿

Dozeeの非接触型センサーの生みの親ともいうべきPiは、現在も同社のCII(チーフ・アイデア・インベンター)かつオフィス犬と活躍中。毎年3月14日には「Piの日」が祝われている(ちなみに同じく2016年の1月、日本の産業技術総合研究所も非接触式の静電容量型フィルム状近接センサーの開発を発表している)。