なぜマジシャンは精神疾患に罹りにくいのか
研究主任のギル・グリーングロス(Gil Greengross)氏は、マジシャンが精神疾患になりにくい明確な理由はまだ述べられないとした上で、自身の見解を説明しています。
「マジシャンが他の多くのクリエイターや表現者と異なる点は、パフォーマンスに必要な精度の高さです。
マジックは他のパフォーマンスと異なりミスが許容されないため、基本的に”オール・オア・ナッシング(全てか無か)”の表現となります」
確かに、コメディアンやミュージシャンはたとえセリフや歌詞を間違えても、それに続くパフォーマンスで十分に取り返せるでしょう。
しかしマジシャンの場合、ミスをしてタネがバレてしまうと、後の結果が180度変わってしまいます。
こうしたミスの許されないパフォーマンスが、彼らに自制心や集中力の高さ、衝動性の低さをもたらし、ひいては精神疾患のリスク低下につながっているとグリーングロス氏は考えます。
では、マジシャン本人はこの研究結果についてどのように考えているでしょうか?
マジックで「社会的スキル」がアップする
本研究に参加したニューヨーク在住のマジシャンであるサラ・クラッソン(Sara Crasson)氏は、このように話します。
「私たちマジシャンが仲間同士で会ったときによくすることは、自分たちの原点を共有しあうことです。どうしてマジックを始めたのかということですね。
特に男性マジシャンの場合は、自らの社会的スキルの欠陥を克服するために8〜14歳の間でマジックを始める人がとても多いのです。
例えば、いじめっ子にマジックを披露したことで、いじめがなくなったというケースがよくあります。
マジックは私たちに自信を与え、社会的スキルを向上させ、人とのコミュニケーションに大いに役立つ方法なのです」
つまり、マジックは自尊心や外向性、集中力や自制心を高めることで、心の健康につながっていると言えるかもしれません。
となると、趣味や楽しみがなく、心が沈みがちな方はマジックを習得して、友人や家族に披露することでメンタルの改善に役立つかもしれません。
参考文献
Magicians less prone to mental health problems than other performers – study
Magicians less prone to mental disorders than other artists, finds research
元論文
Psychotic and autistic traits among magicians and their relationship with creative beliefs
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。