ヒザラガイの目には2種類あった
これまでの研究で、ヒザラガイの殻には「エステート(aesthetes)」と呼ばれるごく小さな光感知器官が無数に点在していることが知られていました。
ただこれは光を感じ取るだけのもので、ヒザラガイに視覚を与えているとは言えません。
しかし研究チームは、ヒザラガイが長い進化の中で2種類の異なる目を別々に獲得していたことを発見しました。
1つは比較的大きくて複雑な構造をしている「シェルアイ(shell eye)」で、もう1つはより小さくて数も多い「アイスポット(eyespot)」です。
シェルアイはアラゴナイトという鉱物でできており、人間の目と同じように、外から入ってきた光を内部につながっている感光層に集光するレンズの役割を果たしています。
一方のアイスポットは殻の前方に無数に点在しており、それらが昆虫の複眼のようにまとまって機能することで視野を広くするのに役立っていると考えられます。
興味深いのは、両タイプの目を同時に兼ね備えるヒザラガイはいないということです。
ヒザラガイの大部分はエステートだけしか持っていませんが、他の一部は「エステートとシェルアイを持つ種」「エステートとアイスポットを持つ種」というように分かれているという。

さらにチームはこの2種類の目がヒザラガイの進化の中で、別々に4回出現していたことを特定しました。
ヒザラガイの進化系統樹を作成して、どの種がどのタイプの目を持っているかをマッピングしたところ、2種類の目は異なるタイミングで独立して出現していたのです(下図を参照)。
ヒザラガイは約4億5000万年前に他の軟体動物から分岐したことが分かっていますが、その中でまずカロキトニダ目(Callochitonida)が約2億5000万年前の三畳紀に「アイスポット」を獲得。
その後、約2億年前のジュラ紀にスキゾキトン・インシサス(Schizochiton incisus)が「シェルアイ」を獲得し、さらに約1億年前の白亜紀に2つのグループが同じく「シェルアイ」を獲得。
そして直近である約2500万年前の古第三紀に「アイスポット」を獲得した種が現れています。

このように別々のヒザラガイが全く異なる時代に、2種類の目を独立して進化させたことは驚くべき事実だと研究者は話します。
一方で、これらの目が実際にどれくらい見えているのかは現在調査中とのことです。
ただ岩場にくっついて生活するヒザラガイにとって、背面に目があることは理にかなっていると思われます。
上方を見ることで天敵の接近をいち早く感知し、自らの動きを止めることで敵に気づかれず、危機が過ぎ去るのを待つのに役立っているかもしれません。
参考文献
Unraveling the mystery of chiton visual systems
Chitons can see you
元論文
A morphological basis for path-dependent evolution of visual systems
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。