2024年7月を目処に「1万円札」「5,000円札」「1,000円札」が新たなデザインに生まれ変わる。この新紙幣の発行に合わせ、「預金封鎖」が起きるという噂がささやかれ始めている。

新紙幣の発行と預金閉鎖には一見関係がないように感じるが、噂が立つのは戦後の日本のとある出来事が背景にある。

戦後の日本のとある出来事

戦後の日本のとある出来事とは、1946年に同じタイミングで起きた新円切り換えと預金封鎖だ。

この時期、日本では激しいインフレーション(物価上昇)が起きていた。インフレを抑えるための対策の一つに市中に出回るお金を減らすことが挙げられるが、政府は一時的に国民の銀行預金からのお金の引き出しを制限することで、物価高騰を抑え込もうとした。

当時の預金封鎖では、銀行に預け入れした預金を一定限度内で引き出す際、預け入れたときの紙幣ではなく、新紙幣で引き出させるという措置がとられた。

こうした日本の過去の歴史があることから、今回の新紙幣の発行と預金封鎖が結びつけられ、「来年預金封鎖が起きるのでは」と噂されるようになったわけだ。

預金封鎖の可能性はほぼゼロ

結論から言えば、預金封鎖の可能性はほぼゼロだろう。

確かに現在、日本ではインフレが起きている。しかし、日銀が適度なインフレを維持・継続することを目指している中、現在のインフレ率はその目標からかけ離れたものではないことから、預金封鎖という強硬手段を使ってまでインフレを抑え込む必要性がほぼない。

また、実は1946年の預金封鎖にはもう1つの理由があった。それは、預金封鎖によって国民の財産を把握する時間をつくり、「財産税」を徴収するためだ。しかし、戦後の混乱期でもない現時点においては、突然前触れもなく財産税を徴収するとは考えにくいだろう。

「デノミ」も起きない

ちなみに新紙幣の発行によって、通貨の単位が切り下げられる「デノミ」(デノミネーション)が起きるのでは、と考える人もいるようだが、これも誤りだ。

デノミが起きるとたとえば、旧1万円札が新100円札と同等の価値を持つ、といったことが起きるが、すでに新紙幣の見本は公表されており、デザインは変わっても「1万円札」は「1万円札」のままだ。つまりデノミは起きない。

もちろん世の中に「絶対」はないが…

「歴史は繰り返す」といった格言めいた言葉はあるが、戦後の日本と現代の日本では経済状況などが大きく異なる。もちろん世の中に「絶対」はないが、新札発行に伴う預金封鎖の不安は杞憂に終わるだろう。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。