40〜50代に多く見られる「中年太り」は、加齢にともない代謝が低下することで太りやすくなる現象とされています。
ただ成長しなくなったり筋肉量が減ったとしても、ほとんどの人は年を取ると若いときのように大盛りは注文しなくなるなど、食べる量も減っているはずです。
そのため中年太りは、加齢で筋肉量が減ったとか、食べる量が若い頃と変わっていないという単純な問題ではなことがわかります。
しかし、加齢に伴って体内で何が起きているのか、その詳しいメカニズムは明らかになっていません。
そこで今回、名古屋大学の研究チームは、中年太りの原因を探るべく、身体の代謝と摂食量を調整する脳内の仕組みについて調査を行いました。
すると、加齢に伴って脳内では食事が十分であることを知らせるアンテナが短くなっていき、感度が鈍ってしまうことがわかったのです。
研究の詳細は2024年3月6日付で科学雑誌『Cell Metabolism』に掲載されています。
脳内には太りすぎを防ぐ「抗肥満メカニズム」がある

これまでの研究では、中年太りの原因として代謝の低下が指摘されていました。
確かに若者と異なり、中年は成長も緩やかになっていき、筋肉量も低下していく傾向があります。そのため代謝が減るから太りやすくなるというのはわかりやすい説明です。
しかし、その点を考慮したとしても、中年以降の身体は極端に太りやすい印象があります。
中年以降でもきちんと運動をしていたり、昔のように大盛りは頼まなくなったという人でも、なんかお腹がぽっこりして脂肪が溜まってしまうということがあるでしょう。
これは筋肉量の低下などの単純な理屈だけでなく、加齢によって全身の代謝が低下しているためですが、これまでなぜ加齢で代謝の低下が起きるのかという具体的な身体の仕組みについては分かっていなかったのです。
生物の代謝や摂食は脳からの司令によって調整されています。
そこで今回の研究チームは、代謝や摂食を調節することで知られる脳のニューロン(神経細胞)を詳しく調査することにしました。
まずそもそも身体には、抗肥満作用というものがあり、体に脂肪が溜まっていくと脳の視床下部のニューロンに「太ってきてるぞ」という司令を出す「メラノコルチン4型受容体」(以下、MC4Rと表記)というタンパク質が存在します。
これによって脳は、体全体の代謝を促したり、食べる量を減らす指令を出すのです。
では、この部分の具体的なプロセスを簡単に見てみましょう。
まず体内に脂肪が蓄積すると白色脂肪細胞から「レプチン」というホルモンが分泌されます。(下図①)

これが脳の視床下部に作用すると、飽食シグナル分子である「メラノコルチン」が分泌され、その情報を視床下部のニューロンに存在するMC4Rが受け取ります。(上図②)
するとMC4Rが脳の神経回路に働きかけて、体全体の代謝を促進したり、熱産生量を増やして脂肪燃焼を促すなどの抗肥満作用を示すのです。(上図③)
これまでの研究では、MC4Rを欠損させたマウスは著しい肥満になることがわかっています。このことからもMC4Rは抗肥満メカニズムにおいて重要な役割を担っていることが伺えます。
そのため中年太りは、このMC4Rの働きが加齢伴って何らかの以上を起こしている可能性があると推測できます。
そこで研究チームは、ラットを使って加齢でMC4Rに何が起きるのかを調べてみました。