こんにちは。

前の投稿からずいぶん時間が空いてしまい、申し訳ありません。今日は大変おもしろいご質問を2ついただいておりますので、久しぶりに「ご質問にお答えします」コーナーで取り上げさせていただきます。

ご質問1:日本はこのままインフレになってしまうのでしょうか?

ご質問2:景気が良くならないのに賃上げをしても、インフレによって賃上げ効果はほとんど吸収され、ちっとも生活が楽にならないのではないでしょうか?賃上げのできない業種や職種の人たちにとって生活がますます苦しくなるだけでは?また、利上げによって中途半端な円高を招いても、庶民の生活は物価高や支払金利の増加でもっと貧しくなるだけではないでしょうか?

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基本的にインフレ不安は去りました

お答え1:まずインフレ問題からお答えします。

西欧中心の「緑の革命」派による化石エネルギー全廃運動の失敗が明白になったことによって、もともとこの運動を半信半疑で見ていた日本が、今さら割高で実用性の低い(むしろ皆無に近い)太陽光や風力発電で電力需要をまかなおうとする事態は回避できたと思います。

ちょうど緑の革命派の動きが活発化した頃にロシア軍のウクライナ侵攻、イスラエル軍によるガザのパレスチナ人絶滅戦争が重なって、一時は日本のようにインフレへの抵抗力の強い国でさえ、慢性的な高インフレになるのではないかという気配が漂いました。

しかし、欧米諸国でも「再生可能」エネルギーの実用性のなさがわかってくるとともに、テスラ株の暴落が示すとおり、高くて重くて充電1回当たりの走行距離の短いEVの評価も劇的に下がり、日本で輸入インフレが高止まりする懸念はもうなくなったと思います。

それとともに「インフレ率さえ年率2%以上に上げれば、賃金上昇は自然についてくる」というリフレ派の「理論」は妄想に過ぎなかったことが白日のもとにさらけ出されたと思います。次のグラフをご覧ください。

上段は消費者物価指数ですが、2022年までは確定値、2022~23年が点線になっているのは実績見込みの段階だからです。

毎月の前年同月比を見ているかぎりでは、リフレ派の皆さんが「夢のパラダイス」と思いこんでいた「2%を常に上回るインフレ率」が直近1年で達成できたと言えるでしょう。

下段は実質賃金指数の2021年までの実績ですが、このだらだらと下げ続けた指数が「2%以上のインフレ率達成」で一挙に明白な上昇傾向に変わったのでしょうか。

お答えは、皆さんの身の回りで景気のいいことをおっしゃっているのは、日本株を買っていた人だけという現状からも明らかでしょう。わかりきったことながら、グラフで念を押せば以下のとおりとなります。

2020年春に第1次コロナ騒動でへこんだ分を翌2021年の春に取り返した以外は、じつに正確に逆相関、つまりインフレ率が高まるほど実質賃金は下がっていたことがわかります。

もともと、海外でエネルギー資源、金属資源、農林水産物の価格が暴騰して起きた完全な輸入インフレなのに、それで実質賃金が上がるわけはないので当たり前ですが、ご注目いただきたいのは2023年1月をピークに消費者物価指数の上昇率が縮小に転じたことです。

輸入インフレは輸出国インフレが鎮まれば鈍化

冷静に考えれば、緑の革命のバカバカしいコストを本気で負担する国はほとんどありませんし、化石エネルギーはもともと供給キャパシティが大きすぎて万年不況とも言えるほど割安になっていたわけですから、エネルギー・金属資源価格は平常に戻るでしょう。

また、ロシア軍のウクライナ侵攻も、イスラエル軍のガザでのジェノサイドも非道は徹底的に糺さなければいけませんが、主要国の生産能力を深刻に圧迫するほどの大戦争ではありません。つまり今のところ、戦争は大きなインフレ要因にはなっていないのです。

ただし、この点についてはイスラエルが自暴自棄的にイランに核攻撃をしかける可能性は常に考えておかなければなりませんが。

ということで、一時は絶望的なほどの大波に見えた輸入インフレも潮が引くように鎮静化しつつあります。

ご覧のとおり、2022年の秋には紫色の輸入価格が前年同月比で50%に迫り、赤の輸入総額は50%を超えるほどのすさまじい勢いだった輸入インフレも、2023年3月以降は急激に鈍化しています。

なお、ここでご注意いただきたいのは、日本政府・日銀の円安政策によって青で示した円の対ドルレートはちょうど輸入価格がピークアウトする頃にもっとも大きく下げています。

おかげで、日本国民は黄緑で示したとおり輸入数量はじりじり下がっているのに、その少ない量を買うのに輸入インフレが顕在化する前の40~50%高い円を払わされているのです。

ただ、政府・日銀の愚鈍さに対する救いとしては、日本経済全体のシステムが急激な輸入インフレを、率にしてなんと10分の1まで縮めて吸収する能力を発揮したことです。

ご覧のとおり輸入インフレを示す左軸の目盛りはプラス50%からマイナス20%の幅になっているのに、日本の消費者物価の変動率を示す右軸はプラス5%からマイナス2%の範囲に収まっています。

「日本国民の買うモノやサービスが全部輸入品じゃないから当たり前だ」と思われるかもしれません。しかし、社会全体が何かしらきっかけがあればすぐにでも便乗値上げで大儲けを企む人たちばかりなら、ハイパーインフレの引き金になってもおかしくないほどの輸入インフレでした。

ただ、あれほど大きな輸入インフレの波を即座に吸収することは不可能ですから、輸入インフレのペースは収まっても、消費者物価のインフレはこれま20~30年の日本ではなかったほど高い状態が続いています。

上のグラフにあるとおり、円の対ドルレートが上昇に転じ、輸入インフレも収まってきた頃、即座には吸収しきれなかった輸入インフレに起因する国内物価上昇率の高止まりによって、勤労世帯の実質可処分所得が深刻に下がっていたのです。

ですが、これは積み残しをこなしている状態であって、この先高いインフレ率を招く新たな要因が出てきたわけではありません。

ご質問1への答えとしては「まだ円安のリフレ効果が出ていないから」という理由でさらなる円安を追求する愚劣な金融政策を推進しないかぎり、日本に高めのインフレ率が定着してしまう恐れはないでしょう。