現在公開中のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』が異例の大ヒットを続けている。往年の『SLAM DUNK』ファンや映画を見た人、映画界から絶賛の声が続出するなか、バスケットボール経験者からは意外な反応も聞かれるようだ――。

漫画家・井上雄彦氏が1990~96年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)でバスケットボールを題材に連載し、コミックはシリーズ累計で発行部数1億2000万部以上を誇る『SLAM DUNK』。「ジャンプ」連載の最終回から26年半を経て公開された、同作を原作とする今回の映画版。神奈川県立湘北高校のバスケ部・宮城リョータ(仲村宗悟)、三井寿(笠間淳)、流川楓(神尾晋一郎)、そして桜木花道(木村昴)らと秋田県代表・山王工業高校の試合や、本作の主人公である宮城リョータ(原作は桜木花道が主人公)の過去などが描かれている。

『THE FIRST SLAM DUNK』は昨年12月3日に公開されて以降、週末の観客動員ランキング(興行通信社調べ)で8週連続1位を獲得。1月30日までの累計で動員647万5000人、興行収入94億5400万円と100億円の大台突破が予想されるほどの大ヒット。ちなみに、昨年8月に公開され1月29日に終映となった『ONE PIECE FILM RED』は累計の動員が1427万人で興行収入が197億円、昨年11月公開の『すずめの戸締まり』は動員990万人で興行収入131億円となっており、『SLAM DUNK』は前評判の高かった『すずめの戸締まり』に迫る数字となっている。

「『SLAM DUNK』は確かに公開前から話題作の一つではあったが、『君の名は。』で知られるヒットメーカー新海誠監督の『すずめの戸締まり』に比べれば、そこまでではないというムードで、公開前にはなぜかネガティブな反応が多かったのも事実。さらに『週刊少年ジャンプ』での連載が終わってから20年以上も経っているということもあり『そこそこヒットはするだろう』というのが大方の見方だった。だが、蓋を開けてみれば興収100億円に迫る勢いの大ヒットとなり、口コミやネット上での評判を見て劇場に足を運ぶ人が多数生まれていると考えられる。人気の根強さを考えると、リピーターなども生まれこのままジワジワと興行収入を伸ばして『すずめの戸締まり』を超えるのではないかという予想もある」(映画業界関係者)

脳内に保管されていた記憶が呼び出されるという体験

SNS上にあがる実際に映画を鑑賞した人々の感想を見ると、「原作が好きで」という人もいれば、「原作は読んでないけど」という人も。ポジティブな意見としては「躍動感、スピード感に衝撃を受けた」「臨場感と迫力がすごい」「想像以上に良くて号泣」「映像が美しかった」「アニメ映画では最高レベル」などという評価が大半のようだ。なぜ映画版『SLAM DUNK』はここまでヒットしたのか。映画業界関係者はいう。

「ひとえに『作品の出来が素晴らしいから』という一言に尽きる。あれだけヒットした漫画なので、原作者の井上氏のもとには以前から映画化のオファーが寄せられていたものの、井上氏は首を縦に振らなかったが、現在のアニメ技術の高さを知って自身が監督・脚本を手掛けるという条件で引き受けたといわれている。

今回の映画版は、漫画版に出てくる桜木たちの『最後の試合』を取り出して描いたもので、原作漫画にかなり忠実な内容となっており、多くの観客は物語のあらすじと結末を知っている。それにもかかわらず手に汗をかくほど興奮して感動してしまうところに、この映画の凄さがある。漫画版ではあまり人物描写が深くなされていなかった宮城リョータが映画版では主人公に据えられ、彼の過去や背景が詳細に描かれている一方、漫画版で主人公だった桜木を含め他の主要登場人物が抱える背景や過去の説明は最小限に抑えられているというか、ほとんど省かれている。それにもかかわらず、中高生の頃に貪るように漫画を読んでいた観客たちの脳内に保管されていた記憶が、懐かしさとともに溢れるように呼び出され、『なぜ、このセリフが出たのか?』『なぜ、●●はこういう行動をとったのか?』という背景がいちいち説明されなくても理解できる。観客にこんな体験を味合わせる映画を、私はほかに知らない。あれだけ国民的ともいえるほどヒットした漫画を原作とするからこそ成立する、稀有な映画だといえる。

観客が『理解できない』という状況に陥らないレベルを保ちつつ『説明をしすぎない』というギリギリのバランスが絶妙で、そこは井上氏がもっともこだわった部分ではないかと感じる。アフレコ(声優がアニメーションに音声を入れる作業)に数年をかけたという話も聞くが、あくまで推察だが、アフレコを進める過程において、『劇中でどこまで説明すべきなのか』という観点で井上さんが何度も脚本を変えていた可能性も考えられる」

声優の一新が話題に

熱狂的なファンが多い『SLAM DUNK』だけに、公開前には一部で拒絶反応も見られた。特に93~96年にテレビ朝日系で放送されていたアニメ版から声優陣が一新されたことがさまざまな反応を呼んでいた。井上氏は映画の公式サイトで公開されたインタビューで、映画を「ナチュラルな感じ」にしたいという思いがあり、90年代のアニメで声を当ててもらったキャストを起用するなら「その方たちのお芝居をいったん捨ててもらわないといけなくなる」と考えたと説明しているが、映画業界関係者はいう。

「当時漫画にハマったファンの間には、漫画版と少し世界観が違うアニメ版にあまり馴染めなかったという人も一定数おり、もしかしたら井上氏はそれを意識して声優を総入れ替えしたのかもしれない。あくまで私見だが、今回の映画版のほうがアニメ版よりも断然に原作漫画の世界観を再現しており、井上氏が声優を刷新したという判断は100%正しかったと考えられる」

そんな圧倒的な支持を得る『SLAM DUNK』だが、バスケットボール経験者からはこんな声も。

「『SLAM DUNK』が流行っていた当時、私は高校のバスケットボール部に所属していたが、私も他の部員たちも、ハマっていたという記憶はない。もちろんざっと読みはしたが、『SLAM DUNK』はストーリーにバスケ以外の要素も多くて、実際にバスケをやっている身としては読んでいて歯がゆいというか、『バスケの内容だけに集中してほしい』という物足りなさを感じた。なので部員たちはもっぱらNBA(米国の男子プロバスケットボールリーグ)ばかり見ていた。やっぱ当時バスケやってた高校生はみんなNBAのほうじゃないですかね。映画もあまり興味はなく、観に行く気はない」(40代男性)

いずれにしても、『THE FIRST SLAM DUNK』の興行収入がどこまで伸びるのかが注目される。

(文=Business Journal編集部)

提供元・Business Journal

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