■肩肘を張らずにシングルモルトを嗜む
BARTENDER
髙橋 克幸さん(バーテンダー歴47年)
池袋の路地にひっそりと佇むバー「もるとや」。ひらがなで「もるとや」と書かれた看板と大きなウイスキー樽が目印だ。
ドアをくぐると左手に5席ほどのバーカウンター。右手に小さなテーブル席。小ぢんまりとしているが、山小屋をイメージしたという店内は天井が高く、店内のあちこちに飾られた小物に遊び心が感じられる。
圧巻はバックバーにずらりと並んだモルトウイスキーのボトルだ。
「数えたことがないので正確な数はわかりませんが」とオーナーの髙橋克幸さんは笑うが、その品揃えは500本以上。ほとんどがシングルモルトだという。
髙橋さんが平成9年(1997)に「もるとや」をオープンしたきっかけは、一本のシングルモルトとの出合いだった。それがグレンタレット1966。
当時、池袋のバー「椿」に勤めていた髙橋さんは、モルト好きの客と出かけた酒場でグレンタレット1966を飲み、「こんなウイスキーがあるんだ」と衝撃を受けたという。それが「もるとや」の原点だ。
シングルモルトと聞くと奥が深く、ハードルが高いと思う向きもいるだろう。だが、ここに来れば髙橋さんと同じように、一杯の幸せな出合いがあるかもしれない。
「シングルモルトを飲み慣れていない方は、口当たりの良いものから入るのが普通ですが、あえてスモーキーなものをお勧めすることで、シングルモルトの面白さ、奥深さを知ってもらうこともあります」と話す髙橋さん。
ストレートやオンザ・ロックはもちろん、ウイスキーと常温の水を1対1で割った「トワイスアップ」やソーダ割りもお勧めだという。
「シングルモルトの中には、少しの水ですごく甘く変わるものがあります。また、アイラ島で造られるスコッチはスモーキーな香りが特徴ですが、ソーダで割るとより一層香りが引き立つんです」
「もるとや」の看板の文字は、開店当時、小学一年生だった息子さんが書いたもの。時は過ぎ息子の康祐さんは「もるとや」の2代目店主を経て、2023年に湯島で姉妹店「THE WALTZ」をオープンした。
「もう我々世代の時代ではないんですよ」と穏やかに微笑む髙橋さん。「もるとや」のアットホームな雰囲気には、そんな髙橋さんの人柄があふれていた。