日本国内に衝撃を与えた宗教団体オウム真理教による一連の事件は 、現在も多くの爪痕が残っている。事件以降、彼らが実行した犯罪や目論んでいた計画が次々と明るみになり、一層の恐怖を抱かずにはいられないものとなった。阪神淡路大震災の被害がまだ癒えない1995年の3月、オウムによる地下鉄サリン事件が発生した。日本中を震撼させたこの事件は、彼らが企んでいた「日本征服計画」あるいは「国家転覆計画」の前哨戦にすぎなかったといわれている。

 当時教祖であった麻原彰晃が、1994年に中国を訪れた際「1997年、私は日本の王になる」「 2003年までに世界の大部分はオウム真理教の勢力になる」「真理に仇なす者はポア(殺害)しなければならない」といった説法をしたという。この時から、麻原ひいてはオウムでは武力によって日本国を「オウム国家」にし、さらには世界征服も念頭においた構想を描いていたとされている。計画については、ボツリヌス菌や炭疽菌そしてサリンを、首都圏のほかアメリカや世界を巻き込み散布するといったものや、爆破テロといったものがあったと言われていた。そうした計画の中の一つにあったのが「第1空挺団乗っ取り計画」である。

 陸上自衛隊第1空挺団といえば、千葉県習志野を駐屯地とする日本で唯一の落下傘部隊である。自衛隊のエリートが集う精鋭部隊と言われており、屈強な隊員が揃っていることから国内でも最強レベルの部隊であると言われている。

 第1空挺団乗っ取り計画は、オウムの幹部であった井上嘉浩(よしひろ)元死刑囚の指揮のもと進められていた。驚くべきは空挺団長宅に盗聴器を仕掛けたというものである。元自衛隊員や元NTT職員であったオウム信者たちによって盗聴器 は仕掛けられたのだが、取り付け方を誤ったことで電話回線自体が通話不能となってしまい、調査に訪れたNTT職員が盗聴器を発見しそして通報したことで発覚したのである。

 オウムが狙っていたのは空挺団長の娘であったのだという。団長の娘を拉致し、それによって団長を脅して第1空挺団の指揮をとらせ、クーデターの際に一斉蜂起させようとしていたというのだ。これ以外でも、オウムは第1空挺団の隊員をオウムに勧誘することによって、乗っ取りの下地作りを進めていたのだ。

 彼らのような人材がオウムに入信するようなことなどありえるのかと思われるかもしれないが、ある興味深い事例が存在する。2015年、オウム元信者高橋克也被告の裁判が行なわれている中で、 オウムによる猛毒VXを用いた数件の事件の実行犯であった元信者・山形明という受刑者が証人出廷した。山形は、18歳で自衛隊に入隊し第1空挺団の所属経歴を持っていた人物だったのだ。彼のオウムに対する信仰心は非常に薄いものであり、共同生活から脱走したこともあったという。その際、麻原との個人面談で「軍事やセキュリティーの仕事をしたい」と愚痴をこぼすと、なんと金を出してやるとの思いがけない返答があったというのだ。すなわち、彼はオウムへの信仰ではなく、オウムからの待遇によって犯罪に手を染めることとなったのである。

 日本が誇る精鋭部隊が、もしテロやクーデターに加わってしまったらと考えるとあまりにも恐ろしいことではあるが、信仰ではない側面からも狡猾に付け入るという手口は油断ならない。そしてこのことは、 能力より以前に何が本当に必要であるかを一考するための、 重要な例であるとも言えるだろう。

【参考記事・文献】
信仰心薄い元自衛官を暗殺に走らせたオウムのカネと待遇

「井上嘉浩」元死刑囚が書き残していたオウム「日本転覆計画」 の仰天シナリオ

オウム真理教の国家転覆計画

『自衛隊のエリート』が集う第1空挺団 精鋭による『伝説』に開いた口が塞がらない

【文 ナオキ・コムロ】

文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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提供元・TOCANA

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