米国政府が中国への半導体および半導体製造装置の輸出規制を強化するなか、中国が自国内で半導体を製造する国産化を進め、技術力を向上させていることに世界で警戒が広まっている。華為技術(ファーウェイ)が昨年8月に発売したスマートフォンには、中国の半導体企業、中芯国際集成電路製造(SMIC)が製造する先端品の7ナノ世代の半導体が搭載されている。また、中国は2023年の自動車輸出台数が491万台で世界一となったが、車載半導体の国産化も急ピッチで進めており、米国による輸出規制強化が中国の半導体開発・製造の技術力を高めているとの指摘も出ている。
米国政府はトランプ政権だった19年、安全保障上懸念のある外国企業を列挙する「エンティティー・リスト」にファーウェイ本体と関連会社68社を追加し、同社への米国製品の輸出を事実上禁止。20年には、米国製の半導体製造装置や設計ソフトウェアを使って製造する半導体をファーウェイへ輸出することを禁止。これにより、ファーウェイは受託製造会社・台湾積体電路製造(TSMC)や、同じく台湾の半導体メーカー・メディアテックから半導体を調達できなくなった。22年には先端半導体の対中輸出を規制し、23年には中国国外にある中国企業の子会社や事業所への輸出を禁止。さらには中国と関係が近い約45の国への輸出規制も開始し、中国への規制を強化してきた。
危機感を抱く中国政府が旗を振るかたちで、同国企業は半導体関連の技術力を急速に高めている。輸出規制下においても中国は、オランダや米国、日本などから半導体製造装置の輸入を続けており、たとえばSMICは先端品である7ナノの半導体を量産し、ファーウェイなどに供給している。
世界市場で台頭する中国の自動車メーカーも、車載半導体の国産化を進める。比亜迪(BYD)と長城汽車はすでに自前でパワー半導体を生産しており、浙江吉利控股集団も昨年から、同社が出資する企業が製造する半導体を採用している。背景には、中国政府の国策がある。政府は15年から進める政策「中国製造2025」で、優遇税制や補助金を通じて新エネルギー車・半導体産業の育成に注力しており、車載半導体の国産化を推進している。車載半導体は米国政府による輸出規制の対象外であり、現在も中国自動車各社は韓国サムスン電子やTSMCに製造を委託して車載半導体を調達しているとみられる。
米国による中国の半導体への過大評価が転機に
中国の半導体産業の現状について、国際技術ジャーナリストの津田建二氏はいう。
「中国が自国内で半導体の製造技術を上げようとしていることは確かである。米国による中国への輸出規制を強めたことが、中国における半導体製造技術のレベルを上げたことも確かである。この2点はある意味、皮肉な結果ともいえる。というのは中国の半導体製造能力は圧倒的に低く、中国企業も積極的に半導体の技術力を強くしようとは思っていなかったからだ。中国の半導体市場(半導体を使う企業への販売額)は、中国政府が国内半導体振興を呼び掛け『中国製造2025』を掲げても、さっぱり成果が上がらなかった。
図1はやや古いが、中国国内における半導体市場規模(赤い点)と、中国内工場で生産される半導体の販売総額(青い点)を表している。中国の習近平指導部が15年に発表した『中国製造2025』では、20年までに半導体自給率を40%、25年には70%に引き上げる計画だった。しかし、20年でさえ20%にも達していなかった。ましてや25年までに70%へ引き上げることなど到底無理だ。
もともと習体制が半導体産業を強くしようと叫んだのは、半導体製品の輸入超過が激しく、毎年15~20兆円も外貨を出さなければ半導体を買えなかったからだ。半導体の自給自足を行えば、少なくとも外貨の流出は防げた。実は2000年ごろにも同様の理由で中国は半導体振興を呼びかけ、SMICが上海に設立された。しかし、結局鳴かず飛ばずに終わった。15年ごろから再び叫んだが、半導体産業はパッとしなかった。図1の中国製半導体のなかには、サムスンやSKハイニックス、TSMC、インテルなどの中国工場の分も含まれている。中国の地場の半導体メーカーの割合は実に乏しい。そんななかで米国が中国の半導体を過大評価し、中国への輸出規制を強めたため、ようやく自国で開発しなければならないという機運が産業界で高まったのである。
そして最近の動きを見ると、中国では7nmプロセスの半導体が開発されており、最先端の半導体を製造できるようになったかのように見える。もちろん、ファーウェイのスマホ『Mate 60』に使われるプロセッサは、ハイシリコンが設計し、SMICの7nmプロセスを使って製造されたことは間違いない。ただしチップ上には7nmという寸法はどこにもない。実際の最小寸法はせいぜい15~16nmである。3次元構造を駆使することによって、微細化せずとも、まるで7nmプロセスで微細化したかのように集積されたトランジスタ数を増やすことができる。米国のIC分析会社がハイシリコンのチップを分析した結果、SMICの7nmプロセスで製造したICとほぼ同じ集積度だったことから、そのチップを7nmプロセスと結論付けたのである。
この7nmプロセスのチップ『Kirin 9000S』で最小寸法15~16nmを加工するために、ArFレーザーリソグラフィによるダブルあるいはトリプルの露光技術を使う。高価なEUVを使わなくても7nmプロセスの製造は可能である。ただし、工程が増える分コストはかさむ」
中国が半導体の国産化を進めれば、中国企業に半導体製造装置を供給する日本をはじめとする海外のメーカーにとっては大きな打撃となる。
「米国政府が中国への製造装置の輸出規制を強めると、日米の装置メーカーの反発を招く。米国にはアプライドマテリアルズとラムリサーチ、KLAなどの大手製造・検査装置メーカーがある。日本の東京エレクトロンはラムリサーチに次ぐ第4位だが、先端半導体装置の中国向け輸出は規制されているものの、先端ではない製造装置なら今のところ輸出は可能だ。実際、アプライド、ラムリサーチ、オランダのASML、東京エレクの売上高に占める中国向けの比率は、それぞれ44%、48%、46%、43%と極めて高い。ちなみにアプライドの場合、第2位の台湾は14%にすぎない。
ただ中国では人材が乏しい。中国の学生はすぐインターネット企業などに就職するといわれており、半導体産業にはなかなか行かないと、ある中国の業界人は嘆く。中国の半導体企業は、台湾や韓国、日本から人材を高額で雇い入れている。いつまでその外人部隊の雇用が続くかはわからないが、もし半導体産業に従事したいと思う若者が増えるなら、中国の半導体産業は力をつけるだろうし、先端技術の開発ができるようになる可能性は高くなる」(津田氏)
(文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト)
提供元・Business Journal
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