おしっこの黄色を作り出す「酵素」を発見!

おしっこの黄色を作り出す「酵素」を発見!
おしっこの黄色を作り出す「酵素」を発見! / Credit: canva

チームは今回、ビリルビンをウロビリノーゲンに変換できるヒト腸内細菌種と、ウロビリノーゲンへの変換能力をもたないヒト腸内細菌種のゲノムを比較しました。

その結果、変換能力のある腸内細菌にのみ「ビリルビンレダクターゼ(bilirubin reductase:bilR)」という酵素をコードできる遺伝子があることが分かったのです。

さらにビリルビンレダクターゼは主に、ヒトの腸内細菌叢で大きな多様性を誇る「ファーミキューテス門(Firmicutes)」に属する細菌種によって産生されることが判明しています。

追加試験では、変換能力をもたない細菌手にビリルビンレダクターゼをもたせると、ビリルビンをウロビリノーゲンに変換できるようになることも確認できました。

つまり、おしっこを黄色にする秘密を握っていたのは、腸内細菌が作り出すビリルビンレダクターゼという酵素だったのです。

ビリルビンレダクターゼの欠如が病気の原因に?

これと別にチームは、健康な成人1801人の腸内細菌叢を調べ、その99.9%がビリルビンレダクターゼの遺伝子を保有する腸内細菌を有していたことを見出しました。

ところが反対に、炎症性腸疾患(IBD)の患者1800人超と、黄疸リスクが高いことで知られる生後3カ月未満の乳児4300人を調べてみると、ビリルビンレダクターゼの保有率が明らかに低いことが分かったのです。

具体的に、IBD患者の保有率は平均68%で、生後3カ月未満の乳児の保有率は平均40%でした。

birR欠如の高さを比較。左:健康な成人と生後1カ月未満の乳児、右:クローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)の患者と健康な成人。CDとUCは共にIBDの一つ
birR欠如の高さを比較。左:健康な成人と生後1カ月未満の乳児、右:クローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)の患者と健康な成人。CDとUCは共にIBDの一つ / Credit: Brantley Hall et al., Nature Microbiology(2023)

このことから、ビリルビンレダクターゼの欠如がIBDや黄疸の発症リスクを高めていることが予想できます。

以上の知見は、おしっこが黄色くなる仕組みだけでなく、黄疸やIBDの理解にも役立つ貴重な成果です。

研究主任のブラントリー・ホール(Brantley Hall)氏は「日常的な生理現象の仕組みがこれほど長い間解明されていなかったことは驚くべきことであり、私たちのチームがそれを説明できたことに興奮している」と話しました。

チームは今後、ビリルビンレダクターゼを中心とした研究を進め、黄疸やIBDの治療法を模索していきたいと考えています。

とにかく、毎日のおしっこが黄色いのは健康の印であり、ビリルビンレダクターゼの頑張りのおかげです。

おしっこの色が茶褐色や赤っぽくなると何らかの病気のサインなので、すぐに病院で診察してもらうべきでしょう。

参考文献

Colorful Mystery Solved: Scientists Discover Enzyme That Makes Urine Yellow

Finally, we know why pee is yellow

Why is urine yellow? University of Maryland researchers discovered the answer

元論文

BilR is a gut microbial enzyme that reduces bilirubin to urobilinogen

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。