生成(出力)は別問題

上野論考は続ける。

誤解すべきでないのは、情報解析規定は生成AIによる著作物利用をすべて許容するものでは決してないことだ。つまりこの規定は学習(入力)を許容するものに過ぎず、生成(出力)は別問題だ。従って生成AIの出力が他人の著作物と創作的表現のレベルで共通する場合、それは当然、著作権侵害に当たり得る。

他方、生成AIの出力が単に事実や画風・スタイルのレベルで他人の著作物と共通するにすぎない場合、そうした出力は著作権侵害にならない。これは著作権法の大原則だが、たとえ 出力が適法だったとしても、著作権のある著作物を無断でAI学習に利用されること自体を著作権で止めたいとの声があるのも事実だ。

ただ仮にAI学習を著作権で止めたとしても、著作権侵害やディープフェイクの出力がなくなるわけではない。そうである以上、違法有害な出力については、そうした出力自体を防止する策を講じる必要がある。AI学習それ自体を 著作権でコントロールできるようにしても効果がないばかりか、あらゆる分野の様々な大量データ解析を阻害しかね、得策とはいい難い。

そしてたとえ情報解析に著作権が及ばなくても、解析を目的としたデータ提供契約を締結することは可能であり有用でもある。情報解析をする者にとっては、雑誌論文や新聞記事の個別収集がたとえ著作権法上自由であっても、権利者と契約して、そのデジタルデータを解析に適した形で網羅的に取得できるメリットは大きい。実際、オープンAIは23年7月に米AP通信と2023年12月に独アクセル・シュプリンガーとAI学習のための記事利用に関する契約を結んでいる。

権利がなければ契約が成立しないという見方は誤解であり実際にも反する。コンテンツ保有者は、著作権でAI学習をコントロールすることを目指すより、データ提供契約など、著作権法以外の手段による共存の道を探るべきではないか。

生成AIの「影」は、学習(入力)ではなく生成(出力)にある。両者をはっきり切り分けないと、生成AIの「光」の部分にも陰りをもたらしかねない。

生成AIのような画期的新技術が著作権侵害の懸念を巻き起こし、訴訟にも発展した例として思い浮かぶのはYouTubeである。今では大メディアに成長したYouTubeも、当初は著作権侵害コンテンツの温床となった。

メディア大手のバイアコム(現パラマウント)から訴えられるなど、今回同様、著作権侵害訴訟の先例も浴びた。米国のデジタルミレニアム著作権法では、サービス・プロバイダーは著作権者からの要請に応じて違法コンテンツを削除していれば著作権侵害責任を問われない。こうしたプロバイダーに好意的な著作権法も味方してYouTubeは訴訟の試練も乗り切った。

新技術の光の部分にかげりをもたらした事例

日本にもこうした画期的技術は存在した。YouTubeより3年前に開発され、昨年、映画化もされたWinnyである。「国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」「第2章 世界の最先端を走っていたP2P技術の商用化を遅らせたウィニー事件」でも紹介した壇俊光『Winny 天才プログラマー金子勇との7年半 (NextPublishing) 』(インプレスR&D、以下、「金子勇との7年半」)の「発刊によせて」で、金子氏が、新しいP2P ファイル共有ソフトの開発宣言をした「2ちゃんねる」開設者のひろゆき氏は以下のコメントをよせている。

LINEでの動画共有とかビットコインなどの仮想通貨とか、P2Pといわれる技術が使われています。その最先端がWinnyでした。金子さんがいれば、日本で発展した技術が世界で使われて、世界中からお金が入ってくるみたいな世の中にできたかもしれなかったんですけどね。

壇氏も「金子勇との7年半」で「コンテンツ配信の世界は、iTunesやYoutubeに席捲された。P2Pの技術開発は日本から失われた。日本が海外のサービスを模倣するだけになってずいぶん経つたような気がする」(158頁)と残念がる。

上野論考の指摘するように光の部分に陰りをもたらさないような著作権法の対応が望まれる。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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