アルコールを飲むと異性が美しく、格好よくみえる

実験の結果、飲酒をしていない人と比較して、飲酒をしていた人のほうが、それぞれの顔の特徴の違いに気付きにくく、顔写真に対する魅力度を高く評価する傾向が確認されました。

アルコールを飲むと異性が美しく、格好よくみえる
アルコールを飲むと異性が美しく、格好よくみえる / Credit: Jones et al., (2003)

また評価者が女性の場合、男性の顔写真への魅力度評価がより高くなり、評価者が男性の場合、女性の顔写真への魅力度評価がより高くなる傾向がありました。

この結果はアルコールの摂取で異性に対する魅力度評価が高くなる効果が存在することを意味します。

この現象は、ゴーグルをかけると周りがよく見えにくくなることから「ビア・ゴーグル(Beer Googles)効果」と呼ばれています。

ビア・グーグル効果はお酒を飲めば飲むほど強く生じるのでしょうか。

どうやら「Journal of Social Psychology」に投稿された、オーストラリアのボンド大学のマイケル・ライバース(Michael Lyvers)らの研究チームによると、そうではないようです。

彼らはキャンパス内のバーにいた大学生80名に協力を仰ぎました。

まず彼らにはアルコール濃度測定機に息を吹きかけてもらい、呼気中のアルコール濃度を測定しました。

その後、男女15名の顔写真を見てもらい、その魅力度を評価してもらっています。

実験の結果、呼気中のアルコール濃度と魅力度の評価の間には弱い正の相関がみられました。

つまりお酒をたくさん飲めば飲むほど、相手の魅力度を高く評価する傾向があるということです。

しかし呼気中のアルコール濃度で参加者を3つのグループに分けてみると、ある程度のアルコール摂取で頭打ちになることが分かりました。

実験の結果を改変。
実験の結果を改変。 / Credit: Michael et al. (2011).

この結果から考えると、お酒を飲めば飲むほど相手が美しく(あるいは格好よく)見えるわけではなく、相手が魅力度を高く評価してしまうのにある程度の飲酒で十分であることが分かります。

ではなぜビア・ゴーグル効果は生じるのでしょうか。

この現象に関してさまざま仮説が提唱されています。

たとえば飲酒によって報酬系と呼ばれる神経回路が活性化され、気分が高揚し、相手の魅力度をポジティブに評価してしまうという説や、「吊り橋効果」のように飲酒による心拍の上昇に伴うドキドキを相手の魅力度によるものだと錯覚してしまうという説などです。

3つ目の説として飲酒によって非対称性の検出精度が下がってしまうからだとするものがあります。

一般的に、人の顔は非対称であるよりも左右対称であるほうが魅力的に感じられるため、飲酒で非対称な顔が左右対称であるように見え、魅力度が高く評価されるということです。

しかし近年の研究によると、飲酒は顔の非対称性の検出を損なわせるものの、魅力度の向上には寄与していないことを報告しています。

ただこの報告に対しては、研究チームは「本研究の結果はビア・ゴーグル効果の存在を否定したわけではない。しかしビア・ゴーグル効果の魅力度の向上は顔の対称性以外の要因により生じている可能性を示唆している」と述べています。

いろいろと研究報告のあるビア・ゴーグル効果ですが、いずれも統計的な報告に留まっており、脳内のメカニズムが明らかになっているわけではありません。

そうなると飲酒自体に意味があるのか、一緒にお酒を飲みに行くという関係自体に理由があるのか、付随する条件のいずれが重要であるか明確にすることは難しくなってきます。

実際のお酒を共に飲む場では、体格や表情、服装など顔以外のさまざまな要因が影響する可能性もあり、ビア・ゴーグル効果の魅力度の向上のメカニズムに関してはさらなる研究が必要と言えるでしょう。

参考文献

Facial symmetry doesn’t explain “beer goggles”

元論文

Alcohol consumption increases attractiveness ratings of opposite-sex faces: a possible third route to risky sex

Effects of acute alcohol consumption on ratings of attractiveness of facial stimuli: evidence of long-term encoding

Alcohol use and intimate relationships in adolescence: When love comes to town

Beer Goggles: Blood Alcohol Concentration in Relation to Attractiveness Ratings for Unfamiliar Opposite Sex Faces in Naturalistic Settings

Impaired face symmetry detection under alcohol, but no ‘beer goggles’ effect

ライター

AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。