支払った医療費が多い場合、家計への影響は大きい。その影響を軽くしてくれる制度が医療費控除である。これは、確定申告をすると還付金を受け取ることができるものだ。確定申告や年末調整における医療費控除のやり方や、申告書類の書き方を知りたい人はぜひこの記事を読んで欲しい。

(画像=ZUU online libraryより引用)

村上 章 (むらかみ あきら)

事業承継コンサルティング株式会社
中小企業診断士(台東区中小企業診断士会長)・行政書士
経営管理体制の構築、後継者教育などの事業承継支援、商店街活性化支援を中心として、長年にわたり中小企業の経営コンサルティング業務に従事する。テクノアルファ(上場)監査役、ソフトブレーン(上場)取締役として上場企業の経営管理にも精通する。現在、当社にてPanasonic事業承継プロジェクト・チームを率い、全国8千店舗のパナソニック・ショップの事業承継の支援を行う。また、台東区役所、東京商工会議所等の経営相談員や専門家派遣など各種公的機関にて事業承継支援に従事している。事業承継に関するセミナー講師を多数行う。著書に「事業承継ガイドライン完全解説」がある。

目次

医療費控除とは

(画像=PIXTA)(画像=ZUU online libraryより引用)

医療費控除とは、多額の医療費がかかったとき、家計の負担を減らしてあげるため、個人の所得からその一部を控除し、所得税負担を軽くしてあげる制度だ。「思っていたよりも医療費がかさんでしまった、想定外だ」「急な病気で医療費の負担がいつもより多くなってしまった」など、多額の医療費は、家計に大きな負担となってしまうことがあるだろう。そのようなときに、所得税負担を減らすことによって、医療費の負担を軽くできる手段が、この「医療費控除」という制度である。

国税庁のタックスアンサーによれば、「その年の1月1日から12月31日までの間に自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。」と記載されている。

医療費控除は、医療費の支払いが先行するものの、その合計額が一定額を超えたときに、年末調整や確定申告を行うことで所得税や住民税が軽減されるというものである。これは、自営業者であろうとサラリーマンであろうと、個人の所得がある人は、ぜひ活用したい制度だ。

しかし、医療費控除という制度があることはわかっていても、それが一体どういう制度なのか、どのように手続きを行えばよいか、具体的に分からない人も多いのではないか。結局、何も手続きを行わず、医療費控除の恩恵を受けられずに終わっている人も多いようだ。医療費控除の書き方を知っておくと得をするのだ。

医療費控除は年末調整で申請できない?

サラリーマンの給与は、毎月の給与から所得税(および住民税)を差し引いて支払われている。しかしながら、源泉税の計算には医療費控除が含まれていないため、年末調整をすることで、医療費控除ができるのではないかと思うかもしれない。

しかし、年末調整における医療費控除の書き方を探しても見つからないだろう。医療費控除は年末調整の対象外とされているからだ。したがって、医療費控除を受けるためには、翌年3月に確定申告を行わなければいけない。

医療費控除の対象は?

医療費とは病院に支払った治療費だけだと思っていないだろうか。病院に通うときに乗った電車やバスといった交通機関へ支払った交通費など、医療費控除の対象について説明したい。

電車・バス

電車やバスを利用した場合、交通機関から領収書をもらえないことが多い。しかし、領収書が無いときであっても、医療費としてカウントすることができる。ただし、その交通費は、誰が使ったのか、いつ使ったのか、どの医療機関に行くのに使ったのか、そのメモを記録として残しておく必要がある。確定申告のときには、その記録を参考にして、明細書を作成するからだ。

タクシー

タクシーを利用した場合は、その運賃は、原則的には医療費控除の対象とはならない。

しかし、電車やバスが動いていない深夜などに、緊急治療の必要があった場合や、電車やバスを使うことができる時間帯ではあるが、病気やケガの症状が深刻で、タクシーに乗らないと病院に行くことができない場合、そのタクシー代を医療費控除にカウントすることができる。

妊婦さんや高齢者が歩くことができず、やむをえずタクシーを利用した場合にも、医療費控除の対象とすることができる。

いずれも、タクシー代の領収書を受け取っておき、それを保管しておくことが不可欠となる。 一方で、電車やバスは面倒だからタクシーにしたなど、利便性を優先した場合は、医療費控除の対象とはならない。

新幹線・飛行機

新幹線や飛行機の運賃は、自己都合のときは対象とならない。しかし、重い病気で、遠方の病院に行かなくては治療できないような場合、その医療機関で治療を受けることが治療のために必須である場合にかぎり、医療費控除の対象とすることができる。たとえば、特殊な病気にかかってしまい、ホームドクターである医師などから遠方の専門家の紹介を受け、そこでのみ受けることができる特殊な治療を受けるといった場合、新幹線や飛行機の運賃は医療費控除の対象とすることができる。

しかし、ホームドクターである医師に治療してもらえるにもかかわらず、「有名な先生の最新の治療を受けたい」など、自己都合で遠方の病院に新幹線や飛行機を使って治療を受けに行った場合、その運賃は医療費控除の対象とすることはできない。

ちなみに、遠方の病院に新幹線や飛行機を使って行く場合、日帰りすることができず、ホテルに宿泊することになるかもしれないが、ホテルの宿泊費は、一切医療費控除の対象とすることはできない。

出産費用

出産に関係する費用は意外に多い。通常分娩の場合、出産時のほかにも妊娠中の定期健診、出産後の入院などはすべて自己負担となる。各自治体が発行している補助券で一部の費用は賄うことはできるが、それを差し引いても総額で医療費控除条件の10万円を超える可能性は高い。ここでは出産時に医療費控除の対象となる一部を紹介する。

医療費控除対象になるもの

  • 妊婦健診(補助券を利用した場合は実費支払額)

    ・分娩費、入院費
    ・通院時の公共交通機関(バス、電車など)の運賃
    ・出産時のタクシー代(バスや電車を利用することが困難な場合)
    ・入院時に病院が用意した食事代

医療費控除対象にならないもの

  • 自家用車を利用して通院した場合のガソリン代、駐車場利用料、有料道路利用料

    ・医師や看護師に対する謝礼
    ・入院時に自己都合で個室を選んだ場合の差額ベッド代
    ・入院の際に自費で購入した寝間着代、洗面用品代
    ・里帰り出産などで帰省するための交通費

確定申告で医療費控除を受ける流れ

医療費控除の書き方を理解する前に、その手順を知っておこう。まずは医療費控除の制度の対象となるかどうかを判断したい。

医療費控除は、総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%を超えている場合に適用することができる。一方、総所得金額等が200万円以上の人は、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が10万円を超えている場合に適用することができる。扶養家族の支払った医療費をすべて合計し、この基準となる金額を超えているか確認するのだ。

ただし、サラリーマンの場合、健康保険組合から「医療費通知」「医療費のお知らせ」などの書類が送られてくるだろう。この書類で、本人が1年間に支払った医療費の額を確認することができる。

ただし、これら通知書の金額だけが医療費として対象になるというわけではない。これに加えて交通費を対象とすることができる。すなわち、病院へ通うときに支払った交通費も医療費控除の対象とすることができる(その範囲には一定の要件がある)。

次に、必要な書類を準備しよう。確定申告書や医療費控除の明細書が必要になるため、e-Taxやfreeeなどの税務申告ソフトを使わない場合には、税務署の窓口からもらうか、国税庁のホームページからダウンロードしたい。

確定申告書を作成することができれば、それらを税務署に提出しよう。e-Taxや税務申告ソフトならば、インターネットを通じて送信すればよいので簡単である。通常は、2月17日から3月16日が申告書の提出期間である。

最後に、還付金が入金されたかどうか確認すれば終わりである。還付金は1か月から2か月くらいすれば、指定した銀行口座に振り込まれることになる。

医療費控除はいくらから対象になる?

医療費がいくら以上であれば医療費控除を受けられるのだろうか。各人の総所得によって、医療費控除を受けられる基準が異なるため注意が必要だ。

納税者の総所得金額 いくらから医療費控除の対象となるか
総所得金額が200万円未満 医療費合計額のうち、【総所得金額×5%】を上回る部分
総所得金額が200万円以上 医療費合計額のうち、【10万円】以上の部分

計算方法であるが、個人の総所得が200万円未満の場合は、支払った医療費が10万円以上とならない場合であっても、総所得の5%を超えた分の金額を医療費控除の対象とすることができる。

ちなみに個人の総所得というのは、収入額とは異なり、事業所得の経費や給与所得控除などを差し引いた後の「所得金額」のことを意味する。収入ベースで年収300万円であっても、所得控除後の総所得は200万円以下になることもあろう。

医療費控除の申請期間はいつまで?

通常、確定申告の締切は3月15日となる。これは税金が還付される場合であったとしても同じである。これを令和2年(2020年)分の確定申告に当てはめれば、令和3年(2021年)3月15日(月曜日)までとなる。

しかし、期限が過ぎた場合であっても5年以内であれば還付申告として申請することできる。令和2年分の医療費控除の場合は令和7年(2025年)12月31日までならば申告可能だ。

医療費控除の還付金と計算方法

医療費控除を申請した場合、還付金としていくら返ってくるのだろうか。

医療費控除の対象金額を算出できれば、それに所得税率を乗じることで還付金が計算できる。

所得税率については、国税庁のホームページに税率表が掲載しているので、それを参照していただきたい。

課税される所得金額 税率
1,000円~1,949,000円まで 5%
1,950,000円~3,299,000円まで 10%
3,300,000円~6,949,000円まで 20%
6,950,000円~8,999,000円まで 23%
9,000,000円~17,999,000円まで 33%
18,000,000円~39,999,000円まで 40%
40,000,000円以上 45%

(参考 : 国税庁 所得税の税率より)

たとえば、総所得200万円以上のケースの計算例を想定してみよう。10万円の計算が行われる。

支払った医療費の年間合計額が40万円、補てん金額が5万円の場合、40-5=35万円となる。そこから、10万円を差し引くと25万円だ。仮に課税所得金額が500万円とすれば、所得税の限界税率が20%であるので、25万円の20%で5万円が還付金額ということになる。

医療費の領収書は提出しなくていい?

2017年分の確定申告から医療費控除の申請方法が大きく変わった。領収書の提出がなくなった代わりに、「医療費控除の明細書」を提出しなくてはならなくなった。もちろん交通費についても明細に記載しなければならない。

領収書の提出はなくなったが、確定申告後5年間は税務署が確認のために領収書の提出を求めることがある。そのため、申告後も領収書は自宅で保管しなければならない。

医療費控除の明細書の書き方

e-Taxや税務ソフトを使っている場合、用紙に手書きで書く必要はないが、明細書の様式を理解しておくことは不可欠である。ここでは医療費控除の明細書の書き方について説明する。

医療費控除の明細書(明細部分)の書き方

お手許に「医療費控除の明細書【内訳書】をご用意いただきたい。お持ちでない場合でも、国税庁のホームページからダウンロードすることができる。

健康保険組合や協会けんぽから医療費通知が送られてきている場合、その通知書の記載事項どおりに、「医療費通知に関する事項」の箇所に記入を行う。すなわち、記入欄において、医療費の金額を記入するのだ。また、治療のために健康保険や医療保険による補てんが行われている場合は、その金額を記入する。

医療費通知が送られてきていない場合、たとえば、扶養家族の医療費を加算するような場合、「医療費(上記 1 以外)の明細」に、医療を受けた人の使命、病院・薬局など支払先の名称、医療費の区分、支払った医療費の金額等を記入しなければいけない。書き方は難しくないが、診察の回数が多ければ、明細書を書くのは一苦労かもしれない。

これらいずれの記入欄においても、医療費よりも健康保険・医療保険の保険金多い場合は、医療費の金額が上限となる。マイナスの医療費というものはない。

医療費控除の明細書(計算部分)の書き方

医療費控除の明細書欄の下に、控除額を計算する部分がある。ここでは、上から順番に数字を書いていくと、一番下で医療費控除額が計算できるようになっており、便利である。

まず、「医療費の明細」の下にある「医療費の合計」を記入する。そして、「医療費の合計」のA欄に支払った医療費合計額、B欄に保険金の補てん金額合計額を記入する。

次に、「控除額の計算」の箇所に記入を行っていく。所得金額の合計額を記入する(給与所得のみのサラリーマンであれば、会社からもらう源泉徴収票の給与所得控除後の金額を記入すればよいだろう)。そして、総所得×0.05(5%の基準)と10万円を比較して、いずれか少ない方の金額を記入する。これを上回る部分が、医療費控除の金額となるのだ。 医療費控除の金額が算出されたら、それを確定申告書A(サラリーマン専用)または確定申告書Bに転記すればよい。

提供元・ZUU online library

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