私たちは潜在的にAI生成アートに対するネガティブな偏見を持っているのかもしれません。

慶應義塾大学のシュウ・イーゼン氏(Yizhen Zhou)らの研究チームは、参加者に人間か、AI生成なのかを伏せた状態で観察、美しさ・具体性、作品がどれだけ好きかなどを評価そして描き手が人間か、AI生成なのかを判断してもらいました。

また評価時には参加者の眼球運動を測定しており、注意が向いた場所や観察時間に違いがあるのかを比較しています。

実験の結果、人間が描いた絵とAIが生成した絵に対する主観的な評価に違いはなかったのに対し、人間が描いた絵のほうが、AIが描いた絵よりも観察に割く時間が長くなったのです。

また参加者は、人間が描いたのか、AI生成なのかを正確に判断することはできませんでした。

研究チームは「この研究結果は、AIが生成したアートに対する暗黙の偏見が存在することを示している。現在AIは、人間が行う創造的なタスクを実行できるようになったが、芸術的創造性は以前として人間だけの特有の能力とみなされているのではないか」と述べています。

研究の詳細は、学術誌「i-Perception」にて2023年の10月30日に掲載されました。

AI生成と人間が描いた絵を見分けられますか?

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近年、AI技術の進化により、AIが生成した動画や画像が増加しています。

OpenAIのChatGPTやDALL-E、GoogleのLaMDAやGemini(旧Bard)、MicrosoftのCopilot、NVIDIAのStyleGANなど。

これらの生成AIは、事前に与えられたトレーニングデータを学習した情報やパターンを基に、画像や文章、動画などの新たなコンテンツを作り出すよう設計されています。

それゆえ生成AIが生み出す作品は高品質で、人間の作品と見分けがつかないものも存在します。

それらの作品に対して私たちはどのように感じているのでしょうか。

AI生成のアートの人気が急速に高まったことを受けて、AIが生成したアートに対する人々の態度を研究することへの関心も高まっています。

近年の研究によると、どうやら私たちには、AIが生成したアートよりも人間が生み出したアートの方を良いと感じるバイアスがあるようです。

ロンドン大学のウルリッヒ・カーク氏(Ulrich Kirk)らの研究では、AI生成と人間が描いたアートに対する美的な評価を実際に比較しています。

実験では、fMRIに入った状態で参加者に、AIによって生成されたというラベルが貼られた絵と人間が描いたというラベルが貼られた絵を見て、美しさを評価してもらいました。

参加者が評価した絵は、人間の顔や背景画というわけではなく、ある概念を抽象的に表現している、オンライン上で公開される画像です。

実験の結果、人間が描いたというラベルが貼られた絵は、AI生成されたというラベルが貼られた絵よりも美しいと評価されました。

実験の結果を改変。
実験の結果を改変。 / Credit: Kirk et al., (2009).

また人間が描いたというラベルが貼られた絵を見たときには、報酬系と呼ばれ、お金や食べ物などを見たときに活性化する内側眼窩前島皮質がより活性化することも分かっています。

この結果は、AI生成のアートに対する美的評価に関してネガティブなバイアスが存在することを意味しています。

つまり、人間が描いた絵とAI生成で描かれた絵では、同程度の完成度・美しさであっても、人間が描いた絵の方を高く評価してしまう傾向があるのです。

このバイアスは、描き手が明示されているから生じるのでしょうか、また抽象画以外の背景画などでも同様に生じるのでしょうか。