保険業界の大改革

 多くの営業職員を抱える生保会社は、職員の育成を充実させる必要があった。だが、どんな手段であれ強引に契約にこぎつける人が褒め称えられる時代があった。2016年、そんな保険業界に地殻変動が起こった。金融庁が適切な保険募集のために顧客の意向把握や情報提供義務を新設し、保険会社や代理店のガバナンス体制整備を義務づけたのだ。

 生保各社がターンオーバーからの脱却に向けて動いていなかったわけではない。業績重視の現場執行の見直しを図り、長く働いてもらう環境づくりにギアチェンジしている。まずは採用だ。大量に採用した時代は「人でさえあればよい」と揶揄されたほど、誰でも採用した。今はSPIなどの筆記試験や複数回の面接を行うなど、丁寧なステップを踏んでいる。また採用時には、営業職員は自営業であること、経費も自己負担であることなどを説明し、社内規定を明記した書類も交付している。

 もっとも、保険の営業は一般的な自営業とは異なる。元手がほとんどかからず、保険会社が商品開発・提供してくれるし、事務所費用も事務スタッフの経費も会社持ちだ。名刺、駐車場代、郵送費などは営業職員の負担だが、PCは会社から支給され、会社によっては携帯電話も貸与される(利用料は営業職員が負担)。

 人材育成も大きく変わった。生保会社は新規契約を過度に重視していると思われがちだが、20年以上前からイニシャルマーケットだけに依存していたわけではない。退職した別の担当者の顧客や地域を割り当てたり、事情があれば担当地域を増やしたり変えたりすることもある。法人との契約折衝の際には拠点長が同行するなどして協力するのは各社共通だ。新人時代を重点的に手厚く育成するプログラムを実施し、5年以上在籍する営業職員の比率が9割になった会社もある。

 加えて、各社は顧客の多彩なライフプランやニーズに応える商品を開発し、ネットなどで顧客との接点を創出したりと、新たなマーケット戦略を展開している。にもかかわらず、なぜ過酷な労働環境が告発されているのか、そして数々の取り組みは有名無実なのか。次回、紐解いていく。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

提供元・Business Journal

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