うつ病に「なりやすい人」と「なりにくい人」がいるのはなぜ?

チームが新たにヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)を詳しく調べた結果、SITH-1遺伝子に「うつ病を起こしやすいタイプ」「うつ病を起こしにくいタイプ」が存在することが特定されました。

うつ病を引き起しやすいタイプのSITH-1遺伝子は、SITH-1タンパク質が発現しやすい遺伝子変異を持っていたのです。

さらに調査対象としたうつ患者を調べてみると、実に67.9%がこのタイプのSITH-1遺伝子を持つHHV-6に感染していました。

データ分析の結果、このタイプのHHV-6に感染している人は、そうでないタイプのHHV-6に感染している人に比べて、うつ病の発症率が約5倍にまで跳ね上がっていたのです。

このことから、HHV-6に感染していたとしても、うつ病になりやすい体質となりにくい体質があると考えられます。

チームは以上の結果を受けて、うつ遺伝に関するシナリオを次のようにまとめました。

まず、うつ病を起こしやすいHHV-6を持つ親(特に母親)から新生児の子供にそのウイルスが伝染し、子供の体内で一生涯に渡り潜伏。

子供は潜在的にうつ病になりやすい因子を持つことに。

HHV-6は疲労によって増加したり、再活性化することが知られているため、のちの人生で環境ストレスにさらされることでうつ病を発症しやすくなる。

HHV-6を介したうつ遺伝のシナリオ。新生児期にHHV-6に初感染すると「突発性発疹」が見られる。(※図中のR1A≦17がうつを起こしやすいHHV-6を指す)
HHV-6を介したうつ遺伝のシナリオ。新生児期にHHV-6に初感染すると「突発性発疹」が見られる。(※図中のR1A≦17がうつを起こしやすいHHV-6を指す) / Credit: 東京慈恵会医科大学 – うつ病になりやすい体質が遺伝する仕組みを世界で初めて解明(2024)

研究者は「これを外側から観察すると、うつ病が親から子に遺伝していると認識できる」と述べています。

実際に、この遺伝の作用について深掘りするため、うつ患者の家族(祖父母、兄弟姉妹、子供)にうつ患者がいるかどうかを調べました。

すると、うつになりにくいHHV-6を持つ患者では家族にうつ患者がいなかったのに対し、うつになりやすいHHV-6を持つ患者では、うつ病歴をもつ家族がいる割合が47.4%もあったのです。

この研究は、うつ遺伝のメカニズムとして、両親から先天的に受け継がれる遺伝的要因とは別に、親から後天的に感染するウイルスがうつ発症の要因になることを示した世界初の成果だといいます。

チームはこれを踏まえて、新生児期に「うつ病を起こしにくいHHV-6」をワクチンとして接種することで将来的なうつリスクを下げられるのではないかと考えています。

まだその方法は確立されていませんが、近い将来、このワクチンがシスを倒すジェダイとなるかもしれません。

参考文献

うつ病になりやすい体質が遺伝する仕組みを世界で初めて解明―メンデル遺伝を覆す新たな遺伝メカニズムの発見―

ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の 潜伏感染遺伝子SITH-1は うつ病を引き起こす(PDF)

元論文

Identification of a strong genetic risk factor for major depressive disorder in the human virome

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。