勃起すればするほど勃起能力が高まっていく
勃起を助ける線維芽細胞は増やせるのか?
研究者たちは、線維芽細胞は勃起頻度に応じて増える可能性があると予想し、これをマウス実験で検証することにしました。
研究者たちはマウスたちの脳で勃起命令を出す領域を操作して、オスマウスの勃起を自由に制御できるようにしました。
この操作を受けたオスマウスたちは、脳の特定領域だけに作用するように調整された薬(デザイナードラッグ)を投与されるだけで、自分の意思や性欲とは無関係に、勃起のオンオフを起こすようになります。
研究者たちはこの仕組みを使って、勃起頻度の多さと線維芽細胞の数の関係を調べました。
すると予想通り、勃起頻度が多くなればなるほど勃起を助ける線維芽細胞が増加し、勃起がスムーズに起こりやすくなることが判明します。
この結果は筋トレと筋肉の関係と同じように「勃起すればするほど勃起しやすくなる」ことを示しています。
(※筋トレの場合は筋肉が肥大しますが、この場合は線維芽細胞が増加します)
逆に勃起頻度を減らす操作を行った場合、線維芽細胞の数が減少していき、若いオスであっても勃起が起こりにくくなることが示されました。
また若いオスマウスと老いたオスマウスを比べると、若いオスマウスのほうが線維芽細胞の数が多いことが示されました。
これまで勃起機能は「若さ」や「精力」という漠然としたパラメータに依存すると考えられていましたが、実は線維芽細胞の数が真のパラーメータだったわけです。

こうした勃起訓練の多くは、人間の場合、睡眠中に行われており、男性は1晩の間に3~5回の勃起(夜間勃起)を起こすことが知られています。
これは男性ならば夜間に何度も繰り返される現象ですが、通常は目が覚めたときだけ自覚するので、一般的には朝勃ちという俗称で知られています。
これまでの研究では、夜間勃起は夢を見るとされるレム睡眠時に起こることが示されており、性欲や理性を介さず反射的に生じてしまうものと考えられています。
(※性的な夢を見るときには夜間勃起に合わせて夢精が起こります)
また夜間勃起の頻度は加齢によって減少することが判明しています。
研究者たちは今回の発見により、人間が夜間勃起を起こすように進化した原因は、線維芽細胞を増加させることにあった可能性があると述べています。
また研究者たちは、勃起の基本的なメカニズムは、解剖学的構造や細胞構造を含めて全ての哺乳類において非常に類似したものであることを指摘。
線維芽細胞の増減が勃起機能に影響すること、また勃起頻度が勃起機能を鍛えることなどマウスで確認されたことが人間にも当てはまる可能性が高いと述べています。
そのため勃起機能に問題を抱える人たちは勃起を繰り返すことで、勃起機能をある程度回復させられる可能性があると結論しています。
またペニスの線維芽細胞の数を増やす薬を作ることができれば、バイアグラとは違って勃起機能を根本的に回復させられる可能性があると述べています。
ただペニスの線維芽細胞が多ければ多いほどいいわけではありません。
今回の研究では、過酷な訓練の末に、極めて多数の線維芽細胞を持つオスマウスが作られました。
ですがこのオスマウスは勃起が数時間にわたって持続してしまう「持続勃起症(プリアプズム)」と呼ばれる状態を発症してしまいました。
バイアグラによる勃起は薬の効果が切れれば収まりますが、一度増加した線維芽細胞数が戻るのは時間がかかります。
薬などの効果で線維芽細胞を無理に増やしてしまうと、それによって勃起頻度が増え、線維芽細胞がさらに増加してなかなか正常な数に戻らなくなり、勃起が収まらないという正のフィードバックが起きる可能性があるのです。
そのため、もしペニスの線維芽細胞数を増加させる勃起機能改善薬が発売されても、飲み過ぎないほうがいいでしょう。
チンパンジーの夜間勃起を偶然に発見、ヒト以外の霊長類で初!
参考文献
Fibroblasts in the penis are more important for erectile function than previously thought
元論文
Corpora cavernosa fibroblasts mediate penile erection
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。