おいしい「投資話」には、くれぐれもご用心――。

巨額投資詐欺が、あとを絶たない。話がうますぎる投資案件に気を付けなければならないことは誰でも知っているはずなのに、まんまと騙されて大損をする人が多いのはなぜか。有名な日米投資詐欺事件を分析し、防御策を考えてみたい。

元本保証で高配当を謳う商品、政府の許認可を受けないモグリ商品、客の紹介で増える子会員や孫会員のカネを巻き上げるねずみ講。姿かたちは違えども、根っこはみな同じ。信用の悪用である。「うそは、真実と同じ顔をしている」からだ。

詐欺師は、人間関係の根本をなす信頼や信用を利用し、それを守るように装いつつ、一方的に相手の知らないところで信頼を破るため、巨利を得ることができる。

まずは、十分な金融知識がない厚生年金基金の運用者担当者たちが、「安定的に高い収益を得ている」と偽って勧誘した投資顧問会社にコロリと騙され、庶民の虎の子年金の約1000億円が失われた、2012年のAIJ投資顧問年金詐欺事件を見てみよう。

AIJ投資顧問年金詐欺事件 「信用度アップ」戦略

近年の株安や低金利で年金資金を思うように運用できていないにもかかわらず、予定利率をバブル時と同じで非現実的な年5.5%に据え置いていた運用担当者に対してAIJは、リーマン・ショックで世界的に株価が急落した2008年度も年率7.45%のプラスを記録したと売り込みをかける。同社の基幹ファンドである「エイム・ミレニアム・ファンド」の2002年6月から2011年11月までの累積収益率は245%に達し、運用成績がプラスになった月の比率は90%を超えたという不自然で夢のような作り話に、追い込まれていた運用担当者たちは飛びついた。

だがAIJは運用の詳細を明かさないばかりか、「独自に開発したMI指数に基づく売り戦略」などという、実態のわからない用語を多用して、顧客をけむに巻いていた。こうして、高リスクのデリバティブ投資であるという真実は隠され、検証もできない仕組みだった。
厚生年金基金の運用者担当者たちが「年金生活者の大切なお金を運用している」という当事者意識を欠き、ファンドの高リスクや不透明さや不自然さに疑いをはさまなかったのが、この詐欺が成功した背景なのだが、「よそがやるなら、うちも」式で顧客を増やしたAIJの「信用度アップ」戦略に留意が必要だ。

詐欺師は、「こんな人や組織も我々を信用している」とアプローチをかけ、疑いやチェックを機能させなくするからである。

L&G社巨額詐欺事件 典型的な「ねずみ講」

一方、錚々たる顔ぶれの有名人を広告塔に採用し、その信用を悪用する詐欺もある。一口100万円で年利36%という夢のような話を中高年者会員にもちかけた円天疑似電子マネーのL&G社巨額詐欺事件がマスコミを騒がせたのは2009年。実態は、末端会員から吸い上げたカネで、高配当を自転車操業する典型的な「ねずみ講」だった。

一流ホテルを説明会場に選び、細川たかし・松方弘樹・坂本冬美・伍代夏子など、ターゲット層に人気のある「紅白級」芸能人に無料コンサートを開かせるなどして、信用させたところが特徴的だ。ある意味、「みなさまのNHK」の信用が間接的に悪用されたのだ。
さらにL&Gの信用を高める謳い文句は「元本保証・解約自由」であった。元本保証や高利回りは、およそ投資の世界ではあり得ない空想話だ。

そもそも、そんなにもうかるのなら、わざわざ他人に教える必要はない。しかも、金融庁に届け出のないモグリ商品だ。だが、「有名人が宣伝している」「会場が信用あるホテル」「あんなしっかりした人が会員になっている」という、その「カタチ」に、多くの人が騙された。これもまた、チェックや検証が入らない仕組みだった。約5万人が1000億円近い損害を被ったとされる。

さらに、いったんL&Gの「カモ」になった哀れな被害者の名簿を入手して被害救済を持ち掛け、「紙くずとなった円天証書を額面、あるいはその数割の金額で買い取る」として、手数料を騙し取る詐欺も横行し、問題となった。合併して今は存在しない「明光証券」の名を騙ったり、実在のSBIジャパンネクスト証券株式会社と紛らわしい「ネクストジャパン証券」、さらに実在の弁護士名を使うなど、ここでも「信用」が悪用された。

マドフ事件 「信用の塊」による5兆円詐欺事件

目を海外に向ければ、米国でも証券会社会長およびナスダック株式市場会長を務めた「信用の塊」バーナード・ローレンス・マドフが四半世紀にわたって運用したねずみ講で、被害額が史上最大の5兆円に上ったマドフ事件が2008年に発覚している。被害者には、英銀HSBC・仏銀BNPパリバ・日本の野村證券など、金融のプロも多数含まれ、いかに詐欺を見抜くのが難しいかが明らかになった。

一方、5600億円規模の巨額投資詐欺事件を引き起こし、2012年に詐欺罪などで有罪評決を受けた資産家のR・アレン・スタンフォード被告の手口も、彼が2008年に米『フォーブス』誌の長者番付で205位となり、純資産が22億ドルと報じられた「信用」を悪用したねずみ講だった

MRIインターナショナル事件 「国境を越えたねずみ講」

国境を越えた詐欺もある。8700人の日本人投資家が米国の日系人詐欺師にねずみ講で1365億円を騙し取られた、2013年のMRIインターナショナル事件。顧客情報誌『VIMO』の表紙を宇宙飛行士の毛利衛、雅楽家の東儀秀樹、登山家の野口健、女優の草刈民代、歌舞伎役者の市川染五郎などが飾り、インタビュー記事を掲載して信用を集めていた。

投資案件は、真実・安全と受け取らせるために、どのような工夫をしているかを吟味すれば、運用者の意図がわかる。どんな権威を持ち出して信用させようとしているか。論理的な飛躍や曖昧さ・誤りはないか。運用をチェックする機関や権力はあるか。うそは真実と同じ顔をしているのだから、外部の専門家による運用内容の分析、運用成績の計算や表示の方法などが国際的な基準への合致、運用会社のみならず投資商品への政府認可など、確認は必須だ。

文・岩田太郎(在米ジャーナリスト)/ZUU online

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