なぜ鳥はあれほど自由に空を飛ぶことができるのだろうか? ペンギンはどうして飛べないのか? 飛翔の仕組みを紐解いていく。
【約300種類の鳥の剥製を展示】
我孫子市 鳥の博物館
山階鳥類研究所に隣接する鳥類専門の博物館。約300種類ものはく製や建物の目の前に広がる手賀沼のジオラマが展示されている。手賀沼での野鳥観察とセットで訪れたい。
千葉県我孫子市高野山234-3
TEL:04-7185-2212
開館時間:9:30~16:30
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始
入館料:一般300円ほか
■鳥は飛ぶために歯を失い、代わりに翼を得た
陸上生活を営む多くの動物が4本の手足を使い環境に適応しているように、鳥は空を飛ぶための器官として前肢(前足)が進化して翼を得た。
鳥の翼はその形状によって推進力(前に進む力)と揚力(上に浮く力)を同時に生み出せるが、人類が作った飛行機はジェットエンジンがなければそもそも推進力が生まれない。
だが、翼があれば飛べるわけでもない。そこには骨や骨格が大きく関わっている。
「人間の骨は体重の約20%を占めていますが鳥の骨はわずか5%程度しかありません。そして重心が体の中心に集まるような構造になっているので空を飛ぶことができるのです」。
日本で唯一鳥類について総合的に研究展示を行う「我孫子市 鳥の博物館」の学芸員・村松和行さんが教えてくれた。
鳥の骨の断面図を見ると、骨の壁は薄く、内部はスカスカで網目状の構造となっている。さらに、橋やドーム状の建造物などに見られる「トラス構造」のおかげで、耐久性も併せ持っている。
「鳥の脚にはほとんど肉が付いていませんよね。これは腱の働きだけで運動をしているからです。また犬の尻尾には骨がありますが、鳥の尾羽にはほとんど骨がありません。歯がないのも頭部を軽くするために進化の過程でなくなったといわれています」と村松さん。
ちなみに鳥の祖先とされる恐竜は、卵から孵化するまでの60%の時間を「歯の発生」に費やしていたと考えられている。そのため卵を短い期間で孵化させるために、進化の過程で鳥が歯を失ったという説もある。
自由に空を飛ぶ鳥は、代償を払って進化してきたのだ。
●はばたき飛行
翼をはばたかせることで揚力と推進力を生み出し前進する。スズメやカラスなどの日常で見かける飛び方がこれだ。
□青緑色の空飛ぶ宝石「カワセミ」
主に水辺に生息し、横枝や岩の上に止まって水面下の獲物を狙う。魚を見つけるとホバリングして空中の一点に停止し、急降下して魚を取る。
ブッポウソウ目カワセミ科
(英)Common Kingfisher (学)Alcedo atthis (漢)翡翠
全長:17cm
渡り区分:留鳥
分布/ユーラシア大陸中部以南、北米、アフリカなど
翼の形状/扇翼
・【Q】翼にはどんな役割がある?
翼は空を飛ぶこと以外にも細い枝の上でバランスを取ったり、日差しや雨、外敵からヒナを守る役割なども担っている。繁殖期のキジやヤマドリは翼で体をドラムのように叩いて縄張りの主張を行う。
・【Q】鳥はどのように空中に浮いている?
はばたいた際に翼先端部の「初列風切」が空気を後方に押し出して体が前に進む。さらにかまぼこ状の「次列風切」が風を受けることで揚力が生じる。この2種の正羽により飛行することができる。
・【Q】翼はどのように作られている?
人と同じく前腕、上腕、手で構成される前肢に、風を捉える羽毛が生えることで翼となる。羽毛には飛ぶための「正羽」や保温効果のある「綿羽」、防水効果があるとされる「粉綿羽」などの種類がある。
●グライディング
翼を広げたままゆっくりと高度を下げる飛び方で、自転車で坂道をこがずに下るときに似たイメージ。
□身近に見られる猛禽類「トビ」
全国の河原などで見られる猛禽類。カラスと同様に動物の死骸や生ゴミを食べるスカベンジャー。翼を水平に保ちときどきはばたいて飛行する。
タカ目タカ科
(英)Black Kite (学)Milvus migrans (漢)鳶
全長:59~69cm
渡り区分:留鳥
分布/アフリカ、ユーラシア大陸中部以南、オーストラリア
翼の形状/裂翼
・【Q】飛び方には種類がある?
はばたきながら前進する「はばたき飛行」、飛びながら一点にとどまり続ける「ホバリング」、翼を広げたまま高度を下げる「滑空」、気流を利用してはばたかずに高度を上げる「帆翔」に分けられる。
・【Q】鳥によって翼の形が違う?
翼の先端の形状によって滑空性能に優れた「尖翼」、低速飛行でも失速しにくい「裂翼」、樹木が生い茂る場所でも動きやすい「円翼」、あらゆる飛び方に対応する「扇翼」の4種類に分けられる。
・【Q】鳥によって飛翔のパターンがある?
真っ直ぐ「直線飛行」する鳥と、はばたき飛行と滑空を繰り返し、波を描くような「波状飛行」をする鳥がいる。波状飛行ははばたきと休憩を交互に行うものでヒヨドリやコゲラなどで観察できる。
■空を飛び続ける鳥と、飛ばないよう進化した鳥
ヨーロッパアマツバメが10カ月間、地上に降りずに飛行を続けたという研究成果が発表されている。渡り鳥は繁殖や越冬のために何千kmもの距離を移動しながら1年を過ごす。移動の間、例えば止まり木のない海上ではどのように過ごしているのだろうか?
「『半球睡眠』といって脳の半分だけ覚醒して反対側は睡眠状態のまま飛び続ける鳥がいます。イルカにも見られる睡眠ですが、おそらく10カ月間飛び続けるヨーロッパアマツバメも半球睡眠をしていたと考えられます」と村松さん。
寝ることはできたとしてもつねに飛び続けるには膨大なエネルギーを要するのではと疑問を抱くが、アマツバメは基本的に空中を飛びながらの生活を前提としている。
食事は飛来する昆虫などを食し、巣を作るときの材料も空中で調達する。交尾も空中だ。まさに飛び続けることに特化した鳥である。
一方で、飛ばないように進化した鳥類もいる。氷原で寄り添う姿が愛らしいペンギンや、大地を駆け回るダチョウなどである。しかし、ダチョウとペンギンでは“飛ばない事情”が異なってくる。
“飛ばない事情”を知る上で注目したいのが鳥の胸部である。鳥の大胸筋(胸部の筋肉)ははばたくために人間に比べ発達しており、筋肉が付着する胸骨の竜骨突起(左頁下図の青色)という部分が前方に大きく隆起している構造が特徴だ。
だが、ダチョウやエミューなど地上を走って移動する走鳥類の竜骨突起は扁平で、筋力も少ない。その分走鳥類は回復力に長けていたり、脚力がほかの鳥類よりも発達していたりする。
脚力は速く走るだけでなく戦闘力にも直結している。オーストラリアなどに生息するヒクイドリの蹴りは、人間が命を落とすほど強力である。
これに対しペンギンの竜骨突起は発達しており、空を飛ぶ鳥と同様の構造がとられている。
またペンギンが泳ぐ構造もはばたくことで推進力が生まれ、空を飛ぶときと同じ原理で行われる。まさに空の代わりに海を飛んでいるともいえよう。
なお沖縄県に生息する日本固有種のヤンバルクイナは、外敵がほとんどいないため飛翔する必要性がないことから飛べなくなった。
生きるために環境に適応しようと進化した鳥は、現代において新たな決断をするときが来るのであろうか。
●高速で海を渡る鳥
□長距離飛行の名鳥「アマツバメ」
地上に降りることはなく食事、睡眠、交尾などすべて空中で行う。仲間のハリオアマツバメは時速170kmの水平飛行最速記録を持つ。
アマツバメ目アマツバメ科
(英)Pacific Swift (学)Apus pacificus (漢)雨燕
全長:19.5cm
渡り区分:夏鳥、旅鳥
分布/シベリア東部、中国、台湾、ヒマラヤ、日本など
翼の形状/尖翼
●飛ばない鳥
□海中を自在に飛ぶ(泳ぐ)「ジェンツーペンギン」
両目にまたがる白い帯状の模様が特徴でペンギンでは3番目に大きい。また最も泳ぎが得意で、最高速度は時速35kmに達するといわれている。
ペンギン目ペンギン科
(英)Gentoo Penguin (学)Pygoscelis papua
全長:75cm~90cm
渡り区分:留鳥
分布/南極圏
○最恐・最速の鳥
鳥類の中で最速には2通りある。水平飛行時に時速170kmで飛ぶハリオアマツバメと、時速389kmで急降下するハヤブサである。そして最も危険なのがヒクイドリだ。
・世界で最も危険な鳥「ヒクイドリ」
3本の長い爪は殺傷能力が高く、2019年には飼育していたヒクイドリに襲われ飼い主が死亡する事故が起こった。じつは草食で泳ぎも得意である。主にオーストラリアに生息している。
・急降下で最速記録を持つ「ハヤブサ」
上空から急降下する際の時速は389kmでハリオアマツバメと並んで世界最速の鳥としてギネス認定されている。これに対し東北新幹線「はやぶさ」の最高速度は時速320kmとやや劣る。
○まだまだいる走鳥類
地上を疾走する走鳥類は進化の過程で飛行能力を失った代わりに驚異の脚力と生命力を授かった。これらの鳥は胸部が扁平であることから平胸類とも呼ばれている。
・鳥類最大の巨体「ダチョウ」
鳥類の中で最大のサイズを誇り大きい個体だと3m近くに達する。時速60~70kmでの疾走が可能で50km程度であれば30分間持続できるという。生命力が強く寿命は60年と長命だ。
・南米最大の鳥類「レア」
ブラジル東部からアルゼンチン中部にかけて生息しており、ダチョウに似た見た目から「アメリカダチョウ」とも呼ばれている。また19世紀までは「アメリカのエミュー」とも称された。
・ダチョウに次ぐサイズ「エミュー」
全長は2mほどにもなりダチョウに次いで鳥類で2番目に大きい。ヒクイドリ目だがおとなしい性格をしている。メスが卵を産むとオスは約8週間もの間飲まず食わずで卵を温め続ける。
提供元・男の隠れ家デジタル
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