現代の医療において、ワクチンは欠かせないものとなっています。
しかしワクチンが歴史の舞台に登場したのは比較的最近であり、それまでは使われていませんでした。
果たしてワクチンが誕生する前は、どのような方法で病気の感染を予防していたのでしょうか?
本記事ではワクチンが開発される前にやっていたそれに近い医療方法について紹介しつつ、最初のワクチンの開発とそれに対する反対運動について取り上げていきます。
なおこの研究については、帝京短期大学紀要2016p-125-132に詳細が書かれています。
ワクチン以前にも似たような発想はあった

現代社会にて恐れられている感染症は数多くありますが、近代以前においては天然痘が最も恐れられていた感染症でした。
天然痘は強い感染力をもち、感染したら20~50%の人が命を落とします。
また運よく回復したとしても顔などにあばたを残すことになり、それゆえ多くの人から恐れられていました。
そのようなこともあって人類と感染症の歴史において、天然痘との戦いは非常に大きな比重を占めていたのです。
天然痘を防ぐための方法には古今東西様々なものがありましたが、現代のワクチンに似た手法は古代にもあり、例えばエジプトでは天然痘から回復した人に看護を担当させて、これ以上の天然痘の拡散を防いでいました。
またインドでは天然痘の患者の着物で子供を包んで抗体を付けようとしていました。
中国ではかさぶたの粉末を吸引したり、乾燥末を注射したりしていたのです。
この手法はやがてヨーロッパへと伝わり、1710年にはウェールズの王子が東方の手法でかさぶたの粉末を受け、これが種痘と呼ばれました。
これらは明確に理解されていなくとも、古くから人類が免疫の概念について意識していたことを示しており、こうした歴史的な実践が病気の予防法を模索するヒントになり、ワクチンの基礎となったのです。
世界初のワクチン、天然痘ワクチン

やがて18世紀末になると、エドワード・ジェンナーによってこれらの手法を科学的に明らかにしようという試みが起こりました。
彼が住んでいた地方では牛飼いや乳搾りする女性は日常の仕事の中で牛痘(牛痘ウイルス感染を原因とする感染症、人間にも感染するが軽症で済む)にかかっているので天然痘に罹患しないことが知られており、彼はこれに着目したのです。
彼は実験にて牛痘の接種が天然痘の予防に有効であることを発見し、1800年に結果を論文にまとめました。
先述したようにジェンナーの研究以前もワクチンに似た概念はありましたが、それらの方法はリスクが高く、接種の後に命を落とす人も決して少なくはなかったのです。
しかしジェンナーの牛痘接種法は死亡例がほとんど見られず、それ故世界中に広まりました。
ジェンナーの種痘法は感染症に積極的に介入して疾患の発症を抑えた初めての偉業とされ、医学の歴史において特に偉大な発見とされています。