ジャパニーズウイスキー誕生から100年の節目となった令和5年(2023)。長野県小諸市の、ある蒸留所が世界から注目を集める理由とは?
■業界のスターを迎え入れ 走り出した新興蒸留所
長野県小諸市。ここにウイスキーファンが熱い視線を送る蒸留所がある。世界中から注目を集めており、それを裏付けるように2022年には海外の洋酒専門誌が選ぶ注目すべき3ブランドの一つに挙げられた。
さらに令和6年2月には世界各国のウイスキーの造り手が一堂に会す「ワールド・ウイスキー・フォーラム」のアジア初の開催地としても選ばれている。
だが、小諸発のウイスキーはまだ世に流通していない。なぜなら、商品として出荷できるウイスキーがまだ完成していないからだ。
蒸留所の名は「小諸蒸留所」。今年6月に竣工式を行ったばかりの、ジャパニーズウイスキー界のニューカマーだ。とはいえ、件の竣工式には長野県知事も駆けつけるほど、地元からの期待度は高い。
きっかけとなったのは軽井沢蒸留酒製造が小諸蒸留所計画を発表した3年前まで遡る。
2010年代に世界的な賞を受賞し、アジアンウイスキーの新境地を開拓した台湾の「カバラン蒸留所」でマスターブレンダーを務めたイアン・チャン氏を、副社長兼マスターブレンダーとして迎え入れたと正式にアナウンスしたのが発端だ。
このニュースは瞬く間に世界中へと伝えられ、業界は一瞬で騒然となった。イアン・チャン氏といえば、“ウイスキー界のアインシュタイン”とも称された故ジム・スワン博士の愛弟子にして、カバランを世界的な蒸留所へと導いた立役者。
そのチャン氏が関わるとあっては注目が集まらないわけがない。元外資系金融機関の凄腕トレーダーという異色の経歴を持つ軽井沢蒸留酒製造の社長・島岡高志氏は「3時間に及んだ初めてのオンラインミーティングの最後に、チャンは“一緒にやろう!”と言ってくれた」と当時を振り返る。
あれから3年。市内を一望できる小高い丘の上でウイスキー造りがスタートし、今年10月にはニューメイク(熟成前のウイスキーの原酒)の提供が蒸留所内のバーにおいて開始されるまでになった。
ウイスキーが熟成するには、これからさらに3年の時間が必要だが、今は蒸留所見学でニューメイクをいただきつつ、来るべきその時をゆっくりと待とうではないか。
●冬限定のcocktail「スモーキー スコッチコーヒー」
1階のバーでは季節限定のオリジナルカクテルや軽食が愉しめる。この冬の新作メニューの中でもお勧めは、クリーミーな泡とチョコレートの濃厚な甘みが奥深い味わいのカクテル。