アビスパ福岡 MF紺野和也 写真:Getty Images

2023シーズン、クラブ初タイトルを獲得したアビスパ福岡には自慢の個がいる。背番号8を背負うMF紺野和也だ。ドリブルで相手を翻弄する現在のプレースタイルは、長きにわたって不変。埼玉県の武南高等学校時代の愛称は「武南のメッシ」、法政大学では「法政のメッシ」、FC東京では「東京のメッシ」、そして現在は「博多のメッシ」。同様のスタイルを維持したまま、進化を続けてきた。

ここでは、ルヴァンカップ決勝で2アシストを記録し、クラブの戴冠に多大な貢献をしたドリブラーについて解説する。


MF紺野和也(FC東京所属時)写真:Getty Images

紺野和也の来歴

法政大学時代に群を抜いた個をみせていたMF紺野和也。3年次の全日本大学サッカー選手権大会でベストMF賞を受賞すると、後に入団するFC東京だけでなくヴィッセル神戸や北海道コンサドーレ札幌などが獲得に動いていた。ただし、プロになってからの3シーズンは順風満帆ではなかった。1~2年目は合計12試合出場1得点。2年目を迎えた2021年3月には試合中に左膝前十字靭帯損傷の大怪我を負い、長期にわたってピッチを離れざるを得なかった。3年目の2022シーズンに出番を増やし、30試合出場2得点2アシストと数字を伸ばしたものの、スタメン出場は半分以下の13試合。選手としてより成長するため、アビスパ福岡への移籍を決断した。

福岡での1シーズンを終えた段階で、この決断は成功といえるだろう。右サイドハーフやシャドーの一角として主力を担い、29試合出場5得点4アシスト。リーグ戦の出場時間は2022シーズンの倍近い2,079分を記録した。2023年9月度の「明治安田生命Jリーグ KONAMI月間MVP」に選出されたことも記憶に新しい。


アビスパ福岡 MF紺野和也 写真:Getty Images

飛躍した福岡での2023シーズン

まずは単純に、紺野自身の成長が躍動理由の1つに挙げられる。攻守にハードワークが求められる福岡に移籍したことで、加入当初と比べて守備意識が高まり、自陣に戻って守備をする機会も増加。161cmの小ささを活かしてボールを奪う場面はよく見られる姿だ。また、長谷部茂利監督の存在も影響している。選手の特徴を活かすことに長けている監督であり、その秘訣は約束事の明確化だ。守備に一定の約束事があるのに対し、攻撃では選手に自由を与えている。紺野が得意のドリブルを遺憾なく発揮できているのは「しなければならないタスク」が多すぎないことと関係している。紺野に限らず、現在の福岡の選手には迷いがない。守備の強度さえ示せば、攻撃では好きなプレーを出せる。頭の中はクリアになり、その状態はプレーに表れている。

システムの変更もプラスに働いた。2023シーズンの福岡は中盤戦まで4-2-3-1と3-4-2-1を併用。紺野は4バックでは右サイドハーフを務め、タッチライン際でボールを受けてドリブル突破を図る場面が目立った。一定の脅威となってはいたが、ゴールまでの距離は遠く角度も厳しい。ドリブルでカットインしてシュートを放っても、GKにセーブされるケースが目立った。第26節からは3-4-2-1で固まり、紺野は右のシャドー位置が仕事場となった。これによりゴールを狙うことがグンと容易になり、周囲との連携からゴール前に侵入する場面が増加した。

実際に、昨季挙げた5得点のうち4得点はシャドーの位置に固定されて以降の第28節と第33節で2得点ずつ奪ったもの。なかでも第33節浦和レッズ戦での2得点は、どちらも序盤戦には見られなかった形だ。前半32分の同点弾は周囲と連動したハードワークで相手を追い込み、高い位置でボールを奪ったことで生まれた。後半17分に挙げた決勝点は、相手DFの背後へ飛び出してループシュートを決めたものだった。紺野はサッカー選手としては非常に小柄で、当然、空中戦で競り勝つことは難しい。一般的なサイドプレーヤーとして型にはめるサッカーであれば、ここまでの活躍は難しかっただろう。ただ、左足の細かなボールタッチから繰り出されるドリブルやトラップなどは元々一級品。プロ4年目にして、ついに本領発揮に至った。

FW岩崎悠人(サガン鳥栖所属時)写真:Getty Images