半導体は大量につくってナンボ

3つほどラピダス関係者の発言を取り上げ、筆者の意見を述べた。これ以外にも、連日ラピダスに関するニュースが報道されている。それらを読むと、どうもラピダスは「特殊な半導体をちょっとだけつくる」ように思われる。しかし、これは半導体のビジネスの基本から大きく逸脱しているといわざるを得ない。というのは、半導体のビジネスとは、汎用品だろうと、特殊用途だろうと、そのビジネスの本質は「大量につくってナンボ」ということにあるからだ。ここで、本の出版と半導体の製造を比較してみよう。この両者は、驚くほど工程やビジネスの仕組みが似ているからだ(図3)。

ラピダス、税金から補助金5兆円投入に疑問…半導体量産もTSMCとの競合も困難
(画像=『Business Journal』より引用)

(1)本において著者が執筆する原稿は、電子機器メーカー、例えばアップルが新型iPhoneを企画することに相当する。著者は原稿を出版社に送る。一方、アップルはiPhoneを企画すると同時に、それに搭載する最先端のプロセッサの仕様を決める。

(2)原稿を受け取った出版社は本の企画を行い、編集をし、デザイナーがレイアウトをする。一方、プロセッサの仕様が決まったら、アップルはシステム設計及びアーキテクチャ設計と呼ばれる基本設計を行い、これを元に論理設計及び回路設計を行ってすべての機能をトランジスタの集積で表現する。さらに、チップ上のどこにトランジスタを配置し、トランジスタ同士をどのように配線するかレイアウト設計を行う。このレイアウト設計されたものをマスクデータという。

(3)印刷会社は、入稿された本のデータを紙に印刷し、製本し、検査して本が出来上がる。一方、アップルから生産委託を受けたファウンドリのTSMCでは、マスクデータをもとに回路原板のマスクを作成し、これを元にシリコンウエハ上に半導体チップ(プロセッサ)を製造する。1枚のウエハ上には1000個ぐらいの同一チップが製造される。これを1個ずつ切り出し、パッケージに収め、各種テストを行って、プロセッサが出来上がる。

(4)できあがった本は、書店に発送され販売される。一方、完成したプロセッサは、台湾ホンハイが中国に展開している組立工場に送られて、iPhoneに搭載されてiPhoneが完成し、世界中に販売される。

このように、本の出版と半導体製造はかなり似通っていることがわかるだろう。そして、本の出版も、半導体製造も、何よりも重要なのは「大量に売れてナンボ」だということである。今回、筆者は4月20日に文春新書から『半導体有事』を上梓したが、そこには1万冊以上売れるという想定がある。もし、数千冊程度しか売れないと思われたら、出版社は筆者に執筆などさせなかっただろう。

半導体も同じである。iPhone用プロセッサが1年で2.3億個売れるというのは、確かに半導体としては突出した数である。しかしiPhone用プロセッサを特例として除いても、半導体は大量につくって売って、初めて利益が出るビジネスである。にもかかわらず、ラピダス関係者が、「コストで勝負しない」とか、「特殊なカスタムメイドの半導体を(少し)つくる」とか、「超短TATでつくる」ことだけを強調している。超短TATでつくってTSMCより安いのか。

このように、ラピダス関係者は誰も安価につくることに言及していない。それは、大量につくることを想定できないからではないか。となると、ラピダスはファウンドリ、というより半導体のビジネスの本質を理解できていないのではないか。そんなラピダスに巨額の税金を投入するのはやめていただきたい。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

お知らせ

8月21日(月)にサイエンス&テクノロジー主催で『ChatGPT(AI半導体)が巻き起こす半導体のビッグウエーブへの羅針盤』と題するセミナーを行います。

ラピダス、税金から補助金5兆円投入に疑問…半導体量産もTSMCとの競合も困難
(画像=『Business Journal』より引用)

提供元・Business Journal

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