外来アリがサバンナを破壊する
サバンナの植物を草食動物から守るという重要な役割を持つ在来のアリたちにとって、脅威となっているのが外来種のアリたちです。
この外来種のアリは「ツヤオオズアリ(学名:Pheidole megacephala)」という種で東アフリカのサバンナで、20年間に渡り影響を与えています。
彼らの起源は、「インド洋の島から持ってこられた」「エジプトでの記録が存在する」など諸説ありますが、いずれにせよ、現在では世界中の熱帯および亜熱帯地域に広がっており、各地の在来アリたちに悪影響を及ぼしています。
東アフリカのサバンナでは、ツヤオオズアリが、在来アリの「クレマトガスター」を攻撃し、殺してしまいます。
ただし、ツヤオオズアリは、在来アリのようにアカキア・ドレパノロビウムと共生関係を築くことはなく、それらの木々をゾウやキリンたちから守ることはありません。

結果として、外来アリが侵入した地域では、「アリと木の共生関係」が崩れ、共生関係が保たれている地域に比べて、5~7倍もの木々が消滅していきました。
ツヤオオズアリが侵入した地域と、侵入していない地域の写真を比べると、その影響の大きさがよく理解できますね。
そしてサバンナの木々の減少は、ライオンたちにも深刻な影響を与えることになりました。
意外な理由で低下したライオンの狩りの成功率

外来アリによって東アフリカのサバンナの木々が減少した結果、景観が大きく変化しました。
これが原因で、ライオンたちの狩りの成功率が下がりました。
ライオンたちはシマウマを狩る時、木々に隠れて忍び寄りチャンスを伺います。
サバンナの木々が大きく減少したということは、ライオンたちが隠れづらくなるということです。
実際に研究チームは、外来アリの侵入により、ライオンたちのシマウマ狩りの成功率が減少していることを確認しました。

一見無関係に思える「外来アリ」と「ライオンの狩りの成功率が下がること」には、確かに関連性があったのです。
外来アリ自体は15~20年前に持ち込まれましたが、研究チームは、「彼らは人間を含む大きな生き物に対して攻撃的ではなかったため、私たちの誰もその影響に気づきませんでした」と述べています。
しかし今、景観に壊滅的な影響を与え、ライオンの狩猟を阻んでいることを確認できます。
このことは、自然界が絶妙なバランスと相互関係で保たれていることを改めて示しています。
たとえ「小さなアリ」だったとしても、それを別の環境に持ち込むことは、取り返しのつかないほど大きな影響を与える恐れがあるのです。
ちなみに、こうした影響があっても、ライオンたちの数は今のところ減っていません。

この理由について研究チームは、ライオンたちが標的をシマウマからスイギュウに変更したからだと考えています。
しかしスイギュウはシマウマよりも大きく、群れで行動するため、はるかに手ごわい獲物です。
こうした狩猟ターゲットの変更が、今後、ライオンやスイギュウたち、また周囲の環境にどのような影響を与えていくのか、現段階では分かっていません。
もしかしたら、もっと大きな出来事へと繋がっていくのかもしれませんね。
東アフリカのサバンナで生じている「風が吹けば桶屋が儲かる」現象は、今度も連鎖していきそうです。
参考文献
UW-Led Research Shows Invasive Ants Change Lion Predation in Kenya
Tiny ant species disrupts lion’s hunting behavior
元論文
Disruption of an ant-plant mutualism shapes interactions between lions and their primary prey
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。