他ではありえない異常さ
百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。
「今回判明した不正問題は、一言でいえば異常な問題といえます。他の企業でも類似した要素はないとは言い切れませんが、他ではありえない異常さがその根幹にあります。それは一言でいえば『試験に落ちたら試験官の責任になる』という、少し考えれば誰でもわかるような間違った認識を現場が何十年もの間持ち続けてきたということです。たとえば大学受験を落ちたら本人の責任か、せいぜい広げても家族の責任ですよね。それがダイハツでは試験を実施する部署が責任を持つと考えられていたわけです。ただし、そのような異常な認識がまん延した背景事情を考えると、その点では他の大企業でも起こりうる要素を内包していると思います」
なぜダイハツでは、このような社風がまん延したのか。同様の問題を抱える企業の共通点とは何か。
「報告書では超短期間で開発を行うというダイハツのビジネスモデルが問題を引き起こした深因だとしています。これは別の言い方をすれば、低コストで安価な車を作り販売するというビジネスモデルでもあります。ダイハツに限らず安く販売することで利益を上げるビジネスモデルの企業では、類似した不正行為がまん延する傾向があるのは事実です。たとえば大手ビジネスホテルが身障者用駐車場を廃止したり、大手量販店が日本では違反となる添加物が入った食品を輸入販売したり、大手百均が著作権を侵害する商品を堂々と売ったりと、高コストにつながる法令順守を現場が軽視する傾向はどの安売り企業にも見られます。
ただ、ダイハツの場合、コストを下げるために安全を犠牲にしたという点は異常です。報告書によれば試験車両の台数を減らすことが低コスト経営につながるということが、未実施の試験の再試験を省略するという考えにつながったとされていますが、正常な組織ではそのような発想は強く止められるはずです」(鈴木氏)
では、ダイハツはこのような組織として抱える問題を改善することは可能なのか。
「経営という観点で考えると、この問題は2つの異なる対応が必要です。ひとつはコンプライアンス体制の再構築です。これは旧ジャニーズの事件と同じで『二度とこのようなことが起きない』ことを目的に、試験に関連するオペレーションやチェック基準、関係する人たちの評価基準などをすべて新しい方法に設計変更していく必要があります。
ただダイハツの場合はもうひとつ深刻なことは、これまで販売してきたかなりの種類の車種に不正試験の疑いの目が向けられている点です。この問題は経営にとっては深刻です。新車販売だけでなく、中古市場でもダイハツの車のオーナーはダイハツ車をまともな価格では引き取ってもらえなくなりますから、損害賠償問題にもなりますし、二度とダイハツは買わないというユーザーが激増する可能性があります。
ここでトヨタが距離を置いているのが私には不思議です。私がトヨタの経営者なら1000億円規模の資金を投下して、ダイハツの過去現在含めたすべての車種について、独立したかたちで再試験を実施します。トヨタは株主という関係者ではありますが、消費者から見ればダイハツよりも信頼される組織です。トヨタが再試験を行っても法的には何の意味もありませんが、一見無駄なこの試験は、ダイハツに乗る消費者には大きな安心を与えます。仮に再試験に落ちる車種が出たとしたら、それこそ株主としてダイハツにその車種は全台数回収するように要求すれば、さらに消費者は安心するでしょう。
ダイハツはどうしようもない状況で、経営体制の刷新は不可避ですが、それでブランドがもとに戻ることはないでしょう。報告書が述べている『管理職が現場を知らない』『内部通報をするとデメリットを被る』『不正が起きないように試験プロセスを変更する提案を経営陣が却下』などの事象を読む限り、自浄作用は期待できません。だとすれば、これはトヨタの問題でもあるわけで、トヨタの動きがないことのほうが私には不思議に見えます」(鈴木氏)
(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)
提供元・Business Journal
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