巨大な単細胞生物オオバロニアはどうやって「細胞分裂」するのか?

巨大な単細胞生物オオバロニアはどうやって「細胞分裂」するのか?
巨大な単細胞生物オオバロニアはどうやって「細胞分裂」するのか? / Credit:wikipedia

オオバロニアは、その巨大なサイズと単細胞の特性から、細胞分裂の方法について特異な戦略を採用しています。

先に述べたように、通常の細胞分裂では、細胞が「くびれ」を作って二つに分かれるのが一般的ですが、バロニアの場合、その巨大なサイズと複雑な内部構造により、このようなプロセスは実質的に不可能です。

そのためオオバロニアでは、細胞分裂は細胞の表面付近でのみ起こります。

細胞質区画から最低限、1個の核と6個の葉緑体を含んだものが分離して、遊走能力をもった個体が形成されます。

この遊走能力をもった(チビ)バロニアは、最外殻に存在する細胞壁の穴から放出されて旅立っていきます。

ただ現時点で、この(チビ)バロニアがそのまま大人のバロニアになるのか、配偶子として他の(チビ)バロニアと合体するのかは不明です。

もし(チビ)バロニアが他の(チビ)バロニアと合体する生殖を行う場合、単細胞生物でありながら有性生殖するという、極めて興味深い事例の1つとなるでしょう。

一方、これまでの研究によりオオバロニアには別の増え方が存在することが知られています。

バロニアが発見されてから100年ほどがたちますが、興味を惹かれた多くの科学者たちによって「解剖」が行われてきました。

するとバロニアが破裂した場合、内部の細胞質区域が水中に放出され、それが次第に球形に変化し、やがて大人のオオバロニアと同じように細胞壁で覆われていくことが判明しました。

つまりオオバロニア内部にある細胞質区画の1つ1つが、オオバロニア本体へと成長できる能力があるわけです。

そのためもしオオバロニアを駆除しようとするなら、指ですり潰すのはやめたほうがいいでしょう

そんなことをすれば、内部に無数に存在する細胞質区画がぶちまけられ、やがて水槽内部はオオバロニアだらけになってしまいます。

(※なお余談ですが、ホウキボシなどのヒトデは全ての足をもいで海に捨てても、バラした足の数+1(中央部)だけ新たな個体として再生できることが知られています。なのでもし再生力に富んだ種を駆除したいなら中途半端に分解せず水から引き揚げて乾燥させ粉みじんにすべきです)

現在、細胞サイズが大きく独特の機能があるオオバロニアは、細胞生物学者や電気生理学者によって、イオン輸送、セルロースの結晶化、膜形成などを理解する研究材料として用いられています。

そのためオオバロニアを含むバロニアたちに関する論文はここ100年の間に2000本以上が発表されています。

しかしバロニアには未だ解明されていない謎が多く存在します。

たとえば「オオバロニアを食べる」ことが知られている海洋生物も、知られていません。

人間の食用として適したバロニア属があるのかも不明です。

またオオバロニアはサンゴなどの隙間に生息していることが知られていますが、なぜそこを選んでいるのか、また周囲の生物にどんな影響を与えているのかも不明となっています。

もし生物学者を目指そうとしている人がいるなら、オオバロニアについての論文作成を狙ってみるといいでしょう。

参考文献

This Eyeball-Looking Thing Is One of The Biggest Single-Celled Organisms

元論文

When is a cell not a cell? A theory relating coenocytic structure to the unusual electrophysiology of Ventricaria ventricosa (Valonia ventricosa)

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。