沖縄のとある島では、とあるイソギンチャクが食材として愛されています。その理由は食べてみたらわかりました。

(アイキャッチ画像提供:茸本朗)

沖縄で食されている「豚の脂身みたいで美味しい」イソギンチャクとは?

食用になるイソギンチャク

海岸に生息し、一般的にも馴染みのある生き物イソギンチャク。触手を伸ばし、そこに含まれる刺胞毒で魚などを捕まえて食べてしまう生き物で、有毒生物としても知られています。

一方でイソギンチャクの中には、伝統的に食用にされてきたものもありました。有名なものが有明海沿岸の「ワケノシンノス」で、イシワケイソギンチャクをはじめとした干潟に生息するタイプのイソギンチャクの総称です。

沖縄で食されている「豚の脂身みたいで美味しい」イソギンチャクとは?ワケノシンノスの唐揚げ(提供:PhotoAC)

ワケノシンノスはきれいに洗った後、味噌煮や唐揚げなどにして食べられます。その味は二枚貝の内臓と巻貝の身を合わせたような感じで、若干の磯臭さととろっとしたぬめりがあり、お酒のおつまみといった感じです。

「豚の脂身みたい」なイソギンチャク

そんな「食用にされるイソギンチャク」はほかにもあります。そのひとつが沖縄の慶良間列島で食べられている「アンダマン」です。

アンダマンはベニヒモイソギンチャクという種類のイソギンチャクで、温暖な浅い海に生息しています。名前の通り細長い紐のような組織を持っているのですが、これは「槍糸」と呼ばれるもので敵に襲われたときに放出されます。

沖縄で食されている「豚の脂身みたいで美味しい」イソギンチャクとは?アンダマン(提供:PhotoAC)

当地ではこのアンダマンを味噌汁にして食べるそうなのですが、先日食べてみたところ、ワケノシンノスと似たような貝の内臓っぽい風味はあるものの、食感は全く異なり、とろっととろけるような舌触りがありました。アンダマンのアンダとは脂という意味で、この舌触りを豚の脂に例えた名前なのだそうです。

一石二鳥の美味しさ

さて、実はこのアンダマンという呼称、ベニヒモイソギンチャクのみを指すものではありません。というのもアンダマンは「アンダ+アーマン」であり、アーマンとはヤドカリのことなのです。

ベニヒモイソギンチャクは特殊なイソギンチャクで、ソメンヤドカリなどの大型ヤドカリが入っている殻に付着しています。そのため、ベニヒモイソギンチャクを採ろうとするとほとんどの場合、ヤドカリも手に入るのです。

沖縄で食されている「豚の脂身みたいで美味しい」イソギンチャクとは?アンダマンの味噌汁(提供:茸本朗)

したがってアンダマンの味噌汁とは、イソギンチャクとヤドカリの両方が入っているわけです。ヤドカリは甲殻類の一種であり、似ると濃厚な出汁が出ます。一杯で二度美味しい味噌汁、というわけです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>