「時計を実際に作ってわかった、シチズン・ミヨタ、セイコーなど国産汎用ムーヴメント事情」(関連記事参照)と題した記事を2023年11月4日に書かせていただいたが、今回その続きとして筆者自身が時計を作るようになって初めて知った国産汎用ムーヴメントの「なぜ」と感じた意外な点について触れてみたいと思う。

その意外なこととはスモールセコンドである。現在の腕時計では、秒針の位置は時分針と同じ中心軸にセットされるセンターセコンドが一般的となっているが、なかには上の写真のように時分針とは別に6時位置に小さなサブダイアルを設けて秒のみを表示するタイプも存在する。

これは小さい(=スモール)、秒(=セコンド)という意味からスモールセコンド(略してスモセコ)と呼ばれており、1940年代までの機械式腕時計といえば、むしろこのスモセコタイプが主流だった。つまりセンターセコンド式はスモセコよりも遅れて登場したのである。

1940年代にイギリス陸軍向けに開発され軍用時計の傑作として世界的に知られているW.W.W.シリーズこと通称ダーティダース(由来は時計メーカー12社が製作を担当したため)も、すべて軍の規定でスモセコ仕様が採用されている。ただ、これにはもうひとつ理由があって、時分針と針が重ならないため視認性に優れるという点でも軍用として適していたからだったようだ。

【スモセコ編】時計を実際に作ってわかった。シチズン、セイコーなど国産汎用ムーヴメント事情2|OUTLINEニュース no.124
(画像=アウトライン・ミリタリーType1940の旧型。4時半位置にスモセコを備えるミヨタ製自動巻きムーヴメントを採用しているため、6時位置に移動させるためにリューズ位置が4時半位置に移動している(完売),『Watch LIFE NEWS』より 引用)

そしてここからが本題なのだが、我々のような小規模時計メーカーが機械式腕時計をオリジナルで開発するとなった場合に、ぜったい作れないものがある。それは時計自体を駆動させる心臓部の機械だ。

前回も説明したが外販用ムーヴメントを製造しているのは国産としてはセイコーとシチズン・ミヨタの現在この2社だけである。手巻き式はないもののクォーツと自動巻きにおいては機能や仕様違いでかなりの種類のムーヴメントが用意されている。

もちろん、センターセコンドだけでなくスモールセコンド仕様もある。しかし、スモールセコンドについては配置位置が問題で、クォーツには6時位置があるものの自動巻きになるとシチズン・ミヨタ製のみで、しかも4時半位置となるのだ。

そのため、上に掲載した写真のミヨタ製自動巻きを使って1940年代の軍用時計を再現した前作のミリタリーType1940(すでに完売)は、スモセコを6時位置にするためにムーヴメントを時計回りに若干回転させて使用している。よく見るとリューズの位置が3時ではなく4時半位置にあるのはそのためだ。

【スモセコ編】時計を実際に作ってわかった。シチズン、セイコーなど国産汎用ムーヴメント事情2|OUTLINEニュース no.124
(画像=ミリタリーType1940の後継機として昨年リリースした新型。6時位置にスモセコを備えたシーガル製手巻きムーヴメントのため、スモセコ自体も大きくできたことで1940年代当時の雰囲気を見事に再現できている,『Watch LIFE NEWS』より 引用)

そして、昨年リリースしたミリタリーType1940の後継機(上の写真)は、もともとスモセコが6時位置にあって、しかも40年代当時と同様に手巻き式を採用するシーガル製ムーヴメントに変更して開発したものだ。それによって位置だけでなく、スモールセコンド自体も大きくできたこともあってグッとヴィンテージ感が増し、かなりオリジナルのダーティダースに近い雰囲気を再現することができたというわけである。

高級ブランドのように自社で開発できれば自由に作れるなのだが、そうでない場合はムーヴメントの仕様次第で制約が出てくるためデザインも変えざるを得なくなる。これが開発するうえで毎回一番に頭を悩まされるところなのである。

ミリタリーType1940
Ref.YK20231-12。SS(38mm径)。5気圧防水。手巻き(Cal.TY2705)。4万7300円

さて、来週は「GMT機能編」をお届けする。

提供元・Watch LIFE NEWS

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