緻密な守備から生まれた先制ゴール
この試合で浦和が特に抜かりなく行えていたのは、前線からの連動した守備だ。
神戸が自陣から攻撃を組み立てようとするやいなや、浦和のFW島田とトップ下の塩越、及び伊藤と清家(両サイドハーフ)の計4人のうち3人が神戸の3バックの前に立ちはだかる。この4人のうち誰が最前線に立つかはその時々で変わっていたが、3対3の数的同数の状況を常に作り、神戸の3バックによるボール運びを妨害しようとする意図が窺えた。
神戸の3バックに睨みをきかせたうえ、右サイドからの突破が持ち味の神戸DF守屋都弥(ウイングバック)を、左サイドバックとして出場した浦和MF水谷有希が捕捉。キックオフ直後から守屋に前を向かせない守備、いわゆる鋭い寄せを水谷が披露したことで、神戸のストロングポイントをひとつ消すことに成功した。
この浦和の緻密な守備が、前半19分に先制ゴールという形で実を結ぶ。3バックの右を務めた神戸DF土光真代が自陣でボールを保持したこの場面で、浦和の左サイドハーフ伊藤が土光からの縦パスのコースを遮断。自陣後方に降りてきた守屋への横パスを誘発した。
土光のパスを受けた守屋は、浦和の左サイドバック水谷のプレスを浴び、バックパスを選択。これにより神戸の自陣からのパス回しが停滞すると、浦和がここぞとばかりに守備の強度を高めた。
この直後に三宅の縦パスを受けた松原に対し、浦和のMF柴田華絵と塩越が寄せる。塩越のボール奪取から浦和の速攻が始まると、清家が敵陣ペナルティエリア右隅から上げたクロスが神戸DF竹重杏歌理に当たり、軌道が変わったことでゴールマウスに吸い込まれる。神戸のオウンゴールで浦和が先制した。
浦和に足りなかったビルドアップの工夫
1点リードで迎えた後半アディショナルタイム、浦和はゴール前の混戦から神戸のFW田中美南にシュートを放たれると、このボールが自陣ペナルティエリア内にいたDF石川の手に当たり、ハンドの反則をとられる。これにより神戸に与えられたPKをFW髙瀬愛実に物にされたことで、延長戦に持ち込まれてしまった。
浦和があと一歩のところで優勝を逃した最大の原因は、追加点を奪えなかったことだと筆者は考える。浦和の速攻は鋭く、サイド攻撃にも厚みがあったが、GKや2センターバックを起点とするパス回し(ビルドアップ)に難があった。
この試合では浦和の2センターバック、石川と高橋はなの両DFが自陣でボールを保持した際、柴田と角田楓佳の両MF(2ボランチ)のどちらかが神戸の2トップの間もしくは斜め後ろに立ち、パスコース作りに注力。ここに立っていた柴田や角田へ、2センターバックからパスが供給されればチャンスに繋がっていたであろう場面がいくつかあったが、特に前半はこの縦パスが少なかった。
ゆえに浦和のビルドアップのパターンが、しだいにセンターバックからサイドの選手への横パスに偏り、攻撃が単調になってしまった感が否めない。2023/24シーズンのWEリーグ第7節終了時点で、首位の神戸と勝ち点差1の2位につけている浦和が逆転優勝に向けて着手すべきは、この部分だろう。
皇后杯優勝を逃したとはいえ、猶本と安藤を欠いたなかでも統制のとれたサッカーを披露し、神戸を苦しめた点は称賛に値する。持ち前の組織力を更に磨き上げれば、今2023/24シーズンのWEリーグのタイトルを手中に収められるはずだ。