先日アゴラで掲載された小島氏の記事は、私には衝撃的な内容でした。65歳以上においては2回目接種6か月以降の重症化予防効果が大幅にマイナスとなったというのです。 予防効果がマイナスであることは、コロナワクチンによりADE(抗体依存性感染増強)が生じた可能性が高いことを意味しています。
大阪大学の論文では、中和抗体が減少した時にADEが生じる可能性について言及されています。接種6か月以降は中和抗体は激減しています。したがって、もしADEが発生するとすれば接種6か月以降であるため、6か月以降の重症化予防効果を監視続けることは極めて大切なことなのです。
ただし、今回の試算でADEの発生が確定したわけではありません。小島氏も言及していますが、生データを用いた計算の場合にはバイアスに注意する必要があります。小島氏が指摘しているバイアス以外に、65歳以上の群において、80歳以上の人の割合や、基礎疾患を複数有する人の割合などのバイアスも存在します。予防効果の計算ではバイアス補正は必須です。したがって、予防効果の計算は、詳細な生データを保有する厚労省や感染研が本来するべき仕事なのです。
現在各国で、コロナワクチンに関するデータが公開されていますが、その内容は国により大きく異なります。実際に公表されているデータを、日本とイギリスで比較してみることにします。
まず、厚労省のアドバイザリーボードのデータです。
生データの列記です。ワクチン重症化予防効果は計算されていません。また、接種からの経過期間別のデータではないため、データとしては不完全です。
重症化予防効果のバイアス補正では、年齢以外では基礎疾患の有無が重要です。生データを用いた計算が以前に物議を醸したことがあります。外信で、「ワクチンをうつとデルタ株の死亡率が6倍になる」 という報道があったのです。この報道は、専門家により、バイアス補正ができていないという理由で否定されました。
このデータより国民が接種の判断をすることは、無理というものです。
更に調べたところ、アドバイザリーボードに感染研が提供した発症予防効果のデータが公表されていました。
診断陰性例コントロール試験によるオミクロン株に対するデータです。右のグラフが期間別の発症予防効果(有効率)です。重症化予防効果は計算されていません。また、65歳以上と未満に分けた予防効果も計算されていません。重症化予防効果のデータはなく、高齢者のみのデータもなく、データとしては不十分です。
次に、イギリスのレポート(04/28/2022)を見てみます。非常に広範囲のデータが提供されています。そのなかより、65歳以上の入院例のデータを抜き出してみます。
診断陰性例コントロール試験によるオミクロン株の重症化予防効果のデータです。驚くほど詳細に分析されています。たとえば、赤枠のデータは、65歳以上で、2回目の接種より175日以降の場合、酸素吸入、人工呼吸器管理またはICUを必要として2日以上入院した時を重症として、ワクチン重症化予防効果は73.4%であることを示しています。括弧内は95%信頼区間です。
政府は、デマに惑わされず正しい情報を得て、ワクチン接種をするかどうかを判断してくださいと、国民に呼びかけています。しかし、厚労省のWebサイトでは、アドバイザリーボードなどにおいて大量のデータが公開されていますが、肝心の国内のワクチン重症化予防効果のデータが公表されていません。掲載されているのは海外の予防効果のデータや国内の計算前の生データばかりです。
ワクチン接種の判断をする時に、一番重要なデータは、ワクチン予防効果、とりわけ重症化予防効果です。そして、イギリスのように、接種からの経過期間別の分析データが公表されていることが必要です。これらの重要な国内データを国民に提供せずに、正しい情報で接種を判断してくださいと、政府は国民に呼びかけているわけです。
イギリスにはできているわけですから、日本にできないはずはありません。診断陰性例コントロール試験の手法を用いるのであれば、厚労省が主導して国内の主要な病院を研究に参加させれば、重症例も相当数のデータを集められるはずです。要は厚労省のやる気次第なのです。
感染研は、発症予防効果は公表していますが、何故か重症化予防効果は公表していません。感染研の調査は1755症例の分析でした。重症者数は発症者数より遥かに少ないため、重症化予防効果を計算するには、数倍~数十倍の症例数が必要と考えられ、調査に必要な労力も数倍~数十倍となるわけです。労力が大変だからとか調査の予算が足りないからといった理由により、重症化予防効果の調査を断念したのだとすれば、実に情けない話です。
鼎の軽重が問われています。厚労省には、接種の判断に必要な情報を、適切に国民に提供する義務があります。
【補足】バイアスと交絡(こうらく)
医療統計学では、年齢や基礎疾患の有無などは交絡因子と解説されています。そして、交絡とバイアスは異なるものと、しばしば説明されています。一方、バイアスという概念のなかに交絡は含まれる とする考え方も存在します。今回の解説では、後者の考え方を採用しました。交絡という用語は一般的ではないため、バイアスという用語のみで解説した方が理解しやすいと、私は考えました。
文・鈴村 泰/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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