バスでの観光中に気になるスポットが目に入ってくると、今ではスマホでググるのが定番ですよね。

しかしスマホを見ていると、せっかくの綺麗な景色を見逃してしまいますし、乗り物酔いも起こしかねません。

そんな中、台湾・工業技術研究院(ITRI)は、こうした難問を解決する画期的な「車窓」を開発しました。

「ARインタラクティブ車両ディスプレイ(AR Interactive Vehicle Display)」と名付けられたこの窓は、AR(拡張現実)と視線トラッキング技術を用い、観光客が目を向けている物の情報を窓に直接表示してくれるのです。

これにより、いちいちスマホを見なくても、建造物の名前や歴史背景を知ることが可能となります。

研究の詳細は、2024年1月9日〜12日にかけて米ラスベガスで開催される世界的なテクノロジーイベント「CES 2024(Consumer Technology Association)」にて発表される予定です。

 

目を向けるだけでスポットの情報が窓に表示される!

ARインタラクティブ車両ディスプレイは、AR(Augmented Reality:拡張現実)を車両の窓ガラスに実装したものです。

ARは現実世界での体験にデジタル情報を重ね合わせることのできる先端技術のひとつで、主にスマートフォンやスマートグラスを通して、目で見ている光景にCG画像などを合成し、それがあたかもその場に実在しているかのように見せます。

ITRIの研究チームは、試作したARインタラクティブ車両ディスプレイの動作手順を次のように説明しています。

まずバスの各座席には、高性能のアイトラッキングカメラが窓の上に内蔵されており、乗客が窓の外を見ている間、カメラが視線の方向をリアルタイムで継続的に評価します。

座席の上に内蔵してあるアイトラッキングカメラ
座席の上に内蔵してあるアイトラッキングカメラ / Credit: ITRI – AR Interactive Vehicle Display(youtube, 2023)

またGPSデータを利用してバスの現在位置や走行速度を確認しながら、乗客が今どこにいてどんな景色を見ているかをチェックします。

そして透明なマイクロLEDタッチスクリーンパネルが窓ガラスの内側全面を覆っており、ARシステムが視線情報をもとにして、乗客が目を向けている建造物などの写真をマイクロLEDパネルを使って表示します。

表示された建造物について詳しく知りたい場合は、その写真をタップするだけです。

ARディスプレイのイメージ(視線に合わせて建造物の写真を表示)
ARディスプレイのイメージ(視線に合わせて建造物の写真を表示) / Credit: ITRI – AR Interactive Vehicle Display(youtube, 2023)

タップすると建造物の詳細な情報が記載されたテキストボックスが展開され、その建物の名称や歴史的背景を知ることができます。

しかもテキストボックスは実際に見ている景色を邪魔しないよう、乗客の視線をもとに建造物を避けて表示されます。

加えて、乗り物酔いを回避するために、パネル上の写真やテキストボックスの位置は車両の動きに合わせて微調整され、乗客のための視覚補助を行います。

これにより、走行中にARコンテンツを見ている間、乗客がめまいや吐き気を感じるのを抑制できるといいます。

表示された写真をタップするとテキストボックスが展開される
表示された写真をタップするとテキストボックスが展開される / Credit: ITRI – AR Interactive Vehicle Display(youtube, 2023)

こうした技術は観光中の美しい景色を楽しみながら、興味関心のあるスポットの情報を知るのに最適です。

わざわざスマホを取り出して調べる手間も省けますし、乗り物酔いをしやすい人にとっても優しいシステムになっています。

もちろん、この技術はバスだけでなく、モノレールやロープウェイ、遊覧船など、あらゆる観光用の乗り物にそのまま応用することが可能です。

さらに研究チームは乗り物の他に、水族館や動物園の窓ガラスに同じ技術を実装することで、来園者が視線を向けている生き物の名前や生態を表示するのにも役立つと考えています。

バスの他にも様々な乗り物に適用可能
バスの他にも様々な乗り物に適用可能 / Credit: ITRI – AR Interactive Vehicle Display(youtube, 2023)

このシステムが世界的に普及すると共に、さらにすでに高い水準を誇る翻訳機能も付け加えれば、海外旅行での観光もより充実したものとなるでしょう。

ARインタラクティブ車両ディスプレイのデモ映像は、こちらからご覧いただけます。

参考文献

AR Interactive Vehicle Display

Eye-tracking window tech tells sightseers about what they’re looking at

ITRI’s window tech tells sightseers about what they’re looking at

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部