他人のためにお金を使うと幸福度は高まるのか?
この疑問に答えるためには、ランダムに集めた参加者を、他者のためにお金を使うグループと自分のためにお金を使うグループに分け、その後の幸福度の比較を行わなければなりません。
ダン氏らの研究チームは、参加者46名にお金を与え、2つのグループに分けて、それぞれに「他人のためにお金を使う」「自分のためにお金を使う」という消費活動を行ってもらいました。
また、参加者に与える金額についても、低額($5、当時の為替レートで約450円)、と高額($20、約1800円)に2パターンを用意し実験当日の朝に郵便でお金を渡し、夕方に参加者に電話をかけ、その時の主観的幸福感を尋ねました。
その結果、自分のためにお金を使った人よりも、他人のためにお金を使った人のほうが、主観的な幸福感が高くなったのです。

この傾向は渡された金額の高さに関係なく見られました。
また今回の実験では、研究チームが別で雇った大学生109名に上記の実験の手順を説明し、事前にどちらの方が幸福度が高くなりそうかを予測してもらっています。
そこでは、他人のためにお金を使うよりも、自分のためにお金を使ったほうが幸福度は高くなり、$5よりも$20もらうほうが幸福度が高くなると予測されていました。

これらの結果は、他者のためにお金を使うことの幸福感はあくまで主観でのみ感じるものであって、他者の視点からは理解できない効果であることがわかります。
多くの人は、他者のためにお金を使うことに対して誤った見解を持っているのです。
しかしなぜ自分のためにお金を使うよりも他人のためにお金を使ったほうが幸せになるのでしょうか。
それは他者のためにお金を使うことで「社会的なつながり」が感じられ、共に喜びを分かち合い、より良い人間関係の形成に役に立つからだと考えられています。
では、この幸福感は見返りは求めていないのでしょうか?
そこで他者にお金を使った際に、他者との関係性の充足が生じない場合に幸福度はどう変化するかを調べた研究があります。
それはカナダのサイモン・フレーザー(Simon Fraser)大学のララ・アクニン氏(Lara Aknin)らの研究で、①$10分のカードを相手にただ渡すだけと②一緒にカフェに行き相手のために使う場合を比較しています。
結果、一緒にカフェに行き相手のために$10分のカードを使った人は、相手にただ$10分のカードを渡した人と比べて、主観的幸福感が高くなったのです。

幸福度の向上の観点から考えると、慈善団体への寄付よりも身近な友だちに対するプレゼントのほうが、より相手との社会的なつながりを感じることができ、主観的幸福感を高めるだろうと予測できます。
これは他者のためにお金を使う場合は、相手から反応をもらえる場合の方がより効果が大きいと考えられます。
小さいプレゼントや寄付でも構いません。
買い物でお釣りが出た時、買い物に出かけた時に誰かのためにお金を使ってみてはいかがでしょうか。
参考文献
More Evidence That Spending Money On Others Makes Us Happier Than Spending On Ourselves
The Hidden Path To ‘Buying Happiness’ With Money Revealed
Need A Happiness Boost? Spend Your Money To Buy Time, Not More Stuff
Social giving makes us happier
元論文
Spending Money on Others Promotes Happiness
High income improves evaluation of life but not emotional well-being
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。