安定感のあるスタンスは「鏡餅」がモチーフ
2023年6月、イタリア・ミラノで世界初公開されたLBXが日本でも正式発表された。
開発コンセプトは「高級車のヒエラルキーを変える」。これまでトヨタを含めさまざまなメーカーが「小さな高級車」にチャレンジしてきたが、成功していない。1989年のブランド発足以来、数々の高級車の概念を覆してきたレクサスは、そこに真っ向から挑戦した。
外観は4190×1825×1545mmのコンパクトサイズながら、堂々とした印象が漂う。日本仕様の全高はタワーパーキング対応になる。フロントは「ユニファイドスピンドル」と呼ぶ低く構えたフード造形とシームレスグリルで構成。サイドは短い前後オーバーハングとグッと踏ん張った大径タイヤが、凝縮感と走りのプロポーションを表現する。安定感のあるスタンスは日本の伝統、鏡餅がモチーフである。
インテリアは最新レクサス共通の「TAZUNAコクピット」の概念を踏襲。デザインやイメージはLBX専用でまとめた。横基調のスッキリしたインパネ上面と、モニターがコンソールと融合した造形のバランスは見事。12.3インチのフル液晶メーターと9.8インチタッチディスプレイのレイアウトは、個人的にはレクサスの中で最も自然かつ整っていると感じている。
装備面もNXからスタートしたドアのeラッチシステムなど先進的だ。ただしシートの電動機構は運転席のみ。シートの空調はヒーターのみと、装備面での「選択と集中」は少々気になる。
LBXはシートポジションもこだわりがある。実際に座るとクロスオーバーというよりハッチバックに近い。落ち着いた印象だ。リアシート/ラゲッジは必要十分のスペース。格別広くはないがLBXのキャラクターを考えれば納得である。
3種のグレードは、インテリアコーディネートに準じている。COOL=クールはシンプルで洗練されたモダンな空間。Relax=リラックスは、落ち着きと華やかさを両立したハイラグジュアリー志向。この2タイプに加えて、表皮色/シートベルト/ステッチ/配置構成/トリム加飾など約33万通りの組み合わせが可能なオーダーメイドシステム、Bespoke Build=ビスポークビルドを特別に設定する。Bespoke Buildはセンターピースのシルバー塗装や専用エアロパーツ/フィルム加飾(OP)などもプラスされる。
走りは電動車フィール満点。メカニズムはほぼLBX専用設計
パワートレーンは全車共通の1.5リッターハイブリッド。形式だけを見るとヤリスクロスの流用に思えるが、実際はその面影はなく、ほぼLBX専用設計である。モーターと組み合わせた直列3気筒1.5リッターエンジンは音・振動を抑えたバランサーシャフト付き、ハイブリッドシステムを含むトランスアクスルは高出力なノア/ヴォクシー用の第5世代、そしてバッテリーは大電流を流せるバイポーラ型ニッケル水素を採用した。
その走りは「電動車感」がかなり強め。発進時はモーターが担当し、アクセルをかなり踏み込んでもエンジンは始動しない。さらにエンジンが始動しても静と動のギャップは少ない。アクセル全開付近では3気筒のビートが聞こえるが、軽やかなサウンドのみで振動やザラついた感触はしっかりと抑えられている。システム出力は100kW。個人的には高速域でもう少しパンチがほしいが実用域は十分以上のパフォーマンスを披露する。
プラットフォームは形式上GA-Bと呼ばれるが、内容を見るとLBX専用であることが一目瞭然。ボディ骨格はフードのアルミ化、ホットスタンプ材の積極的な採用、短ピッチ打点技術や構造用接着剤の採用部位拡大(乗員に近い部分は高減衰タイプを使用)、局部剛性アップ(カウル構造/インパネ内部構造)で軽量&強靭化を徹底。シャシー系ではジオメトリー刷新のフロントサスペンション(キャスタートレールが大きい)、3点締結の入力分離型アッパーサポート、アルミ鍛造ナックル、新開発のショックアブソーバーを採用している。
FFモデルしか試乗していないが、走りは軽快なのに重厚なフィーリングがある。直進時はタイヤの四隅配置&ワイドトレッドによる踏ん張りが印象的。一方、コーナリング時は前輪依存度が少なめでアンダーステアはほぼ顔を出さない。ドライバーの意のままの走りが可能だ。
レクサスのDNAともいえる「静粛性」も抜かりなし。音や振動の発生源を抑制する「源流対策」にこだわった点は、初代LSから続く DNAをしっかりと継承。先進安全技術に関しても妥協はなく、最新のLexus Safety System+を採用する。
LBXはレクサスの中では最も小さなモデルとなる。しかし内容を知れば知るほど既存モデル以上のこだわりを感じる。マーケットでどのように評価されるのか、大いに楽しみだ。