魚料理で人気のもののひとつ「煮魚」。醤油や砂糖、味噌などの調味料を使って煮るのが一般的ですが、中には「調味料を使わないで作る」ものも存在します。
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魚と言ったら生?焼く?煮る?
皆さんは「魚料理」と聞くとどんなものを思い浮かべるでしょうか。
我々日本人はきっと、寿司や刺身などの「生食」を連想することが多いと思います。我々は古くから魚を生で食べることに強いこだわりを持っており、それを表した「割主烹従(包丁仕事だけで食べさせるものを最上とし、加熱調理はそれに次ぐものとする)」という言葉もあります。
ただ、魚が長らくメインのタンパク源であった我が国では、生食以外の調理法も多数用いられてきました。中でも「焼き」と「煮物」の2つは、全国津々浦々に様々なレパートリーが存在します。
「湯で煮る」という調理法
さて、皆さんは「魚の煮物」と聞くと、どんな料理が連想されるでしょうか。
代表的なものはもちろん、魚を醤油と砂糖、みりんなどで似た「煮付け」でしょう。魚の種類を選ばず、どのようなものでも美味しく仕上がる人気の調理法です。生臭みをとり食べやすくすることから、魚が苦手な人でも食べられると言われています。
そのほかにも、醤油のかわりに味噌を用いた「味噌煮」もよく知られています。臭みの出やすい魚を美味しく調理する方法で、有名なサバのほか、サメやエイのような軟骨魚類、あるいは厳密な魚ではないですがイルカやクジラのような海獣類の調理にも用いられます。
しかし、今回フィーチャーしたいと思っているのは、これらとはまた違うもの。醤油も味噌も使用しないという不思議な煮物「湯煮」です。
湯煮はなぜ美味しいか
湯煮とはその名の通り「湯で煮る」という調理法です。ただし厳密には湯のみで煮るのではなく、日本酒を少量加えることが多いです。
湯で煮ると聞くと「それは『茹でる』では?」という疑問が浮かぶと思いますが、「茹で」は食材に熱を入れて変質させることが目的であり、沸騰したお湯で加熱するのに対し、湯煮は「臭みを消し旨味を閉じ込める」ことが主体であり、60~80度程度の比較的低い温度で加熱するという違いがあります。
魚は高温の液体中で調理してしまうと、旨味が流出し、脂が酸化してしまうためパサパサになってしまいます。そのため魚の茹で料理というものはほとんど存在しません。
しかし低温で加熱すると旨味が抜け出さず、それでいて臭み成分だけは抜けるため、とても食べやすくなります。これが「湯煮」が美味しくなる理由です。可能であれば調理の5分程前に軽く塩をふっておくと、臭みが表面に染み出すため湯煮の効果が高まります。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>