所得税の減税の方法として知られるものとして医療費控除がある。これは病院・医院や歯科医に支払った金銭について所得が減額され、その結果、所得税が減税されるものである。では、医療費控除によってどれだけ所得が減らされるのか。ここではその計算方法について説明する。

中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

まず、医療費控除の計算について説明する前に医療費控除がどのようなものなのかおさらいしたい。

・まず、医療費控除制度とは

医療費控除は1月1日からの1年間のうちに支払った医療費が一定の金額を上回った場合に、上回った金額について所得が控除されるものである。

・医療費控除の対象となるもの

医療費控除の対象となる医療費は治療または療養について支払われた金銭である。

具体的には、病院・医院や歯科医に支払われた診察代金や、それらに通うための公共交通機関の運賃、薬局で購入した医薬品の代金がある。

また、治療や療養ではないものの、出産費用や一部の介護サービスのサービス料についても医療費控除の対象となる医療費に含まれる。

・医療費控除の対象とならないもの

医療費控除は治療や療養に対して支払われた金銭に対して控除がされるものなので、治療や療養出ないものについては医療費控除の対象とならない。

例を挙げれば、容貌を整えるために行われる美容整形の費用、単に健康増進のために行われるビタミン剤の購入等がある。

・医療費控除の計算から控除されるもの

医療費を支出した際、協会けんぽ・健康保険組合や保険会社から何らかの金銭が支給されることがある。

このようなものは医療費控除の計算から差し引かれることによって医療費控除の対象外となる。実質的に支払われた金銭について控除するという趣旨のためと思われる。

・控除額を求める

以上から求めた医療費の合計、医療費から控除されるものの金額の合計と所得の金額から医療費控除の金額を求める。

医療費控除の対象となるものの集計をする

医療費控除の計算に際して、どのように集計や計算すればいいのであろうか。順を追って説明する。まず、ここでは医療費控除の対象となるものの集計をするものについて説明する。

・医療費控除の対象となる領収書を集める

医療費控除の対象となる支出に関する領収書について、集計を取るために、また、保存していつでも税務署の提出に応じることができるようにするために集める。

・交通費は領収書がなくてもいい場合もある

公共の交通機関の運賃は医療費控除の対象となることもあるが、通常、領収書は発行されることがない。

この場合、病院、医院や歯科医に通うために使った交通機関の代金について記録に残しておき、他の領収書と一緒に保管する。

なお、タクシーを使った場合(通常は認められないが、公共の交通機関が使えない場合については例外的に認められる)は領収書が必要になるものと思われる。

・医療費通知があれば手間が省けるが…

年末に近づくにつれて、健康保険組合等から使った医療費の一覧が送られてくる。

実はこれは領収書に替えて医療費控除の際の資料として使うことができる。

しかし、これを使う際には何点か注意が必要となる。

まず、年末頃来る医療費の通知に記載されている内容は処理の関係上、12月までの記録が全部ではなく、9月までか10月頃までの記録しか入っていない。すなわち、10月や11月以降の記録についてはこちらで領収書を元に記録と集計する必要がある。

次に注意すべき点は、書かれている金額は実際に支出された金額とは異なっていることもあることである。通常、保険適用となる医療費について10円未満は端数処理を行っているが、医療費通知に書かれている金額はそうではなく、1円単位の金額まで書かれていることもある。

その場合、実際に支払った金額と差異が生じることとなるため、調整する必要が出てくる場合もある。

・領収書は病院や薬局ごと、医療を受けた人ごとに

領収書を集めるときは、医療費を支払う人と病院や薬局ごとに区別して集めることとなる。

なぜならば、確定申告時には、医療費控除について「医療費控除の明細書」を提出する必要がある。この書類には医療を受けた人の氏名と支払先の名称について一つずつ記載して金額を記載することとなる。

これらは1回の診療ごとで記載する必要はないものの、医療を受けた人と支払先ごとに金額を記載することとなるため、それでまとめて金額を集計する。

医療費から控除される金額とは

医療費を支払った場合、健康保険組合等からそれに対して金銭が支給される場合もある。

そのような金銭については、いわゆる値引きのような性質があるために、医療費控除の対象となる金額を求める際には控除する必要がある。

これは医療を受けた人と診療先ごとに集計を行い、支払った医療費の控除分として「医療費控除の明細書」に記載することとなる。

では、どのようなものが支払った医療費の控除となるのであろうか。

・健康保険組合から支払われる出産育児一時金

出産費用は、分娩費用やそれを行うための入院費用をはじめ、さまざまなものが医療費控除の対象となる。

一方で、出産を行ったことによって健康保険組合等から出産育児一時金が支払われることがある。

このとき受け取った出産育児一時金については、医療費の払い戻しの性格があるため支払った医療費から控除されるものとして扱われることとなる。

・高額療養費の返還分

医療費を多く支払った場合は、高額療養費として一定の金額を上回った分について返還が受けられることがある。

これはやはり、医療費の払い戻しの性格があるため医療費控除の計算の上では医療費から差し引かれるものとして扱われることとなる。

・生命保険の保険金

入院給付金など、治療に関して支払われた生命保険の保険金についても医療費控除の計算の上では医療費から差し引かれるものとして扱われる。

なお、この場合、実際に支払った医療費以上の保険金を受け取る結果になるケースがあるが、この場合はこの保険金の支払対象となった治療などの医療費のみから引くことでたり、他の治療などの医療費から控除する必要はない。

医療費控除は医療費が10万円以上なくともできることがある

医療費控除を計算する際には、医療費から健康保険組合等から支給される金額を控除した金額から更に所得から計算される金額を控除する。

では、どれだけの金額が控除されるのであろうか。

・医療費から控除される所得に基づく金額

医療控除において医療費のうち医療費控除に含まれない金額として健康保険組合などから支給される金額の他に所得から計算する一定の金額がある。

その計算はどのように行われるのであろうか。

まず、もととなる所得は、基礎控除、配偶者控除、扶養控除などの所得控除をする前の所得を用いる。すなわち、給与であれば、給与控除した後の金額、事業を行ったのであれば、所得から経費や(あれば)青色申告特別控除を控除した後の金額である。

なお、譲渡所得での特別控除を行った場合はその控除前の金額を用いる。

・所得の5%か10万円の低いほうが控除される

医療費控除から計算される所得を元にした金額は

・前項で求めた所得の金額の5%
・10万円

のうち、低い方の金額となる。すなわち、所得が200万円以上となった場合は控除されるのは10万円となり、それ未満の場合は所得の5%となる。

医療費控除の金額を求める

以上のことをまとめて最終的に医療費控除を求める。

まとめて書くと

(1)医療費の金額を求めて
(2)医療費の補填となる社会保険や生命保険から支払われる金額を控除して
(3)控除前の所得の5%か10万円の少ない金額を控除する

ことによって医療費控除の金額を求める。

なお、医療費控除は税金を算出するもととなる所得の金額を求めるものであり、医療費控除の金額そのものから税金が差し引かれるわけではない。

医療費控除でいくら戻ってくるのか?

●還付金の計算

医療費控除の対象となる金額を算出することができれば、戻ってくる金額を計算で算出できる。
戻ってくる金額 = 控除医療費 × 所得税率
で算出可能だ。

所得税率については、以下を参照。
 

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円~1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円~3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円~6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円~8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円~17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円~39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

(参考 :国税庁 所得税の税率 より)

セルフメディケーション税制で控除される所得の金額の計算方法

医療費控除の中には特例として、セルフメディケーション税制というものがある。

これは申告者が健康増進や疾病予防のための取り組みを行っているうえで、特定一般用医薬品等(スイッチOTC医薬品がそれにあたる)を購入した場合において、その購入費から一定の金額を控除した金額を医療費控除とするものである。

・セルフメディケーション税制の対象となるものの判別方法

セルフメディケーション税制の対象となるものは特定一般用医薬品等がそれにあたるが、どの医薬品がそれになるかは以下のようにして判別する。

1.医薬品のパッケージに「セルフメディケーション税控除対象」の識別マークが入っているのでそれを目印にする

2.レシートにそれと分かる記号が付けられているので(どのような記号化は店によって違う)それで区別する。

・セルフメディケーション税制における医療費控除の計算方法

セルフメディケーション税制においての医療費控除は通常の医療費控除に比べて違ったものとなっている。

1.スイッチOTC医薬品の購入費をもとめ
2.医療費の補填となる社会保険や生命保険から支払われる金額を控除して
3.12,000円を控除する。
4.控除した結果、88,000円を超えた場合は88,000円となる。

なお、セルフメディケーション税制を適用するには健康増進や疾病予防のための取り組みを行う必要があるが、それに要した健康診断や人間ドックの費用に関しては医療費控除の対象とならない。

医療費控除の計算を求めたその後でやるべきこと

・いつまでに提出するのか?

確定申告の開始時期は、通常、対象となる年の翌年の2月16日から3月15日である。

ただし、医療費控除を含めて、税金を計算した結果、税金が還付される場合(還付申告をする場合)、通常は翌年の1月1日(ただし実際は、正月3が日は税務署が開いていないので1月4日)から5年以内が対象期限となる。

ちなみにこれを令和2年(2020年)分の確定申告に当てはめれば、原則として、令和3年(2021年)2月16日(火曜日)からである。ただ、還付となる場合は令和3年1月4日(月曜日)からとなる。

・申告書と一緒になにを提出すればよいのか?

従来、確定申告時に医療費控除の適用を求める場合は、申告書と一緒に領収書そのものを提出することとなっていた。

しかし、現在において領収書は提出することはできず、確定申告時に提出するものは原則として「医療費控除の明細書」のみとなっている。

ただし、明細書記入時に源泉徴収票・マイナンバーカードが必要なことは覚えておこう。これらは明細書作成時に利用する。

領収書は、各自5年間保存しておき、税務署から提出を求められたときはいつでも領収書を提出できるようにしておく必要がある。
提出を求められた際に提出ができなかったり、内容に相違が見つかった場合は医療法所の全額や一部の取消しが生じる可能性もある。

・どのように提出すればよいのか?

医療費控除の適用のために確定申告を行う際の申告書の提出方法は3通りある。

①税務署に直接行って申告書を手渡す場合。
この場合は申告書を税務署の受付に提出したときが提出時とされるので、期限の日まで税務署に持参して提出することとなる。
なお、税務署の営業が終わった(午後5時)あとにおいては、税務署の入口付近に置かれている文書収受箱に申告書を入れておけば投函した当日の受付扱いにしてもらえる。そのため、税務署に期限の日までに持っていくことができたら期限に間に合うことができる。

②郵便での提出。
郵便で申告書を提出する場合は消印の日をもって提出の日とされるので、期日に間に合わせたければ、期日の収集に間に合うか、その日のうちに郵便局の窓口に出しておけば、到着が翌日以降になったとしても期日内に税務署に提出したものとされる。
注意しなければならないのは、これは郵便での提出であって、宅配便(や郵便局で取り扱うゆうパック)での提出ではないという点である。通常、宅配便では信書とされる申告書を送ることはできず、仮に宅配便で提出したとしても提出した日ではなく、税務署に到着した日をもって提出日とされる。

③e-taxによる提出(送信)。
これは国税庁のサイトや各種会計・税務ソフトから直接国税庁のサイトに申告データを送信して確定申告をすることができるものである。
e-taxによる申告は送信が完了した日に提出されたものとされるため、期限に間に合わせたいのであれば、期限日の23時59分までに送信が完了している必要がある。

まとめ

本記事では、医療費控除の計算方法についてその計算方法について記した。

中には計算方法について、10万円以上医療費がないと0になるなど誤解された方もいたかと思われる。

本記事が医療費控除の計算において参考になれば幸いである。

文・ZUU online編集部、編集者・中村優之介/提供元・ZUU online

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