大変貌を遂げたトヨタ・クラウンシリーズは、2022年7月に4つのモデルが公表され世間を驚かせた。それは派生モデルということではなく、4つの個性をそれぞれが持つモデルとして、尖ったキャラクターを持って登場したからだ。その中で正統派セダンも「革新と挑戦」をもって2023年11月に発表・発売された。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=新型クラウンセダン(FCEV)。ボディカラーはプレシャスメタル、『AUTO PROVE』より引用)

クラウンセダンは2つのパワートレインを持ち、ひとつはMIRAIのシステムを搭載したFCEV燃料電池車と2.5Lガソリンエンジンを搭載したマルチステージハイブリッドの2タイプ。双方に試乗できたのでお伝えしよう。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=フロントと同様にリヤも横一文字のLEDコンビネーションランプが施されている、『AUTO PROVE』より引用)
【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=『AUTO PROVE』より引用)
【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=『AUTO PROVE』より引用)

2つのパワートレイン

まずはFCEVだが、ウルトラ・スムースで高い静粛性があり、かつてのセルシオの再来を思い出させる。リビングルームが移動しているかのような乗り心地、静粛性は他に類を見ないレベルだ。レクサスLSがそうしたキャラクターのはずだが、実際はドライバーズカーの方向性で、ユーザーによってはニーズのズレを感じている人もいるだろう。そうした動く応接間を求める人に新型クラウンセダンは響く。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=FCEV車は外部給電も可能だ、『AUTO PROVE』より引用)
【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=一回あたりの充填時間は約3分、『AUTO PROVE』より引用)

もちろんFCEVだから電気モーターで走行し、エンジンがない分静粛性は高い。水素を車両に充填して発電し、EV走行する仕組み。現在水素ステーションは全国で163箇所あり、主に、首都圏、中京圏、関西圏、九州圏で展開し、それを結ぶ幹線道路で設備を増やしている状況だ。

クラウン・セダンの航続距離は約820kmあり、出先での充填を考えるケースは稀なこと、とも言える航続距離を持っている。出力は134kW(182ps)/300Nmあり、滑らかで力強い加速をする。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=2.5Lマルチステージハイブリッド、『AUTO PROVE』より引用)

一方のハイブリッドは新開発のマルチステージハイブリッドで、4段の減速ギヤを内蔵しシームレスな加速、変速をする技を入れたハイブリッドだ。こちらはエンジンを搭載している分、音が入り込むものの、シリーズ・パラレル式ハイブリッドの静粛性は高い。開発エンジニアも「FCEVに可能な限り静粛性を近づけたい」という思いで開発をしたと話していた。こちらのパワースペックはFCEVと同様180ps/300Nmなので、スペック的な違いはない。

感じ方に違いがある後席の印象

この静かな室内を持つクラウンセダンの居住性だが、ドライバーズカーというより、ショーファーをメインとしている様子も伺える。しかし、水素タンクを床下に格納している関係で、後席の着座位置が高く、シアターレイアウトのようなポジションになる。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=インテリアはブラウン(プレミアムナッパ本革)、『AUTO PROVE』より引用)
【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=タッチパネル内蔵型のアームレスト、『AUTO PROVE』より引用)

高級車の後席であれば体が沈み込むような座り心地をイメージしたが、意外な風景を見ることになったのだ。前後席のカップルディスタンスは確保しているというものの、感じ方としてはゆったりした印象は薄い。センタートンネルにも水素タンクを格納し、足元には大きくトンネル部が迫り出していることが影響していると思う。

これを包まれ感や隔壁感、迫る空間による落ち着きを感じるという感覚になるのか、単に広さを感じないという印象になるのか、人によって感じ方の違いが生まれる後席空間だった。

ひと回りおおきくなったボディサイズ

一方で、運転席での快適性は素晴らしい。ステア応答も素直だし俊敏すぎず高級車らしい優雅な動きは好ましく、高級感がさらに増していく。加えてFCEVはEVならではの俊敏なレスポンスは気持ちいい。アクセルの反応は間髪入れず加速姿勢に入る電気モーターのレスポンスは癖になる。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=フロントは水平基調の造形をベースに木目調パネルが施されている、『AUTO PROVE』より引用)

クラウンセダンのパッケージは先代よりもひと回り大きくなり、全長5030mmと5mを超えている。全幅は1890mmで全高1475mm。ホイールベースは3000mmジャストで、メルセデス・ベンツのSクラスやBMW7シリーズに匹敵するサイズにまでなった。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=堂々としたクーペスタイルの伸びやかなシルエット、『AUTO PROVE』より引用)

プラットフォームはTNGA-LのFR駆動プラットフォームを採用している。TNGA-Lは先代クラウンと同様であり、MIRAIが採用し水素タンクを搭載できるプラットフォームだ。他のクラウンシリーズはFFがベースのTNGA-Kを採用しており、おなじクラウンでも全く異なるキャラクターであることは、こうした点からも理解できる。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=オプションのブラックパッケージを選択すると20インチアルミホイールが装着される、『AUTO PROVE』より引用)

さて、16代目となったクラウンセダンはグローバルモデルとなり、セダンは2022年に広州モーターショーでプロトタイプを発表したように中国市場をメインターゲットにしているモデルだ。中国の都市部ではEV、FCEV以外の販売状況は厳しく、農村部ではICEがメインであるものの時代は変化している。そうした環境でのEVを考えるとクラウンの背負うものはショーファーニーズに応え、技術で先行する姿をグローバルでアピールすることも大事でありBEVではなく、燃料電池車としたことは理解できる。

こうしたことから、トヨタではニューフォーマルセダンという言い方をしており、ショーファーニーズを前提とした正統派セダンの位置付けでグローバル展開を目指すわけだ。

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=『AUTO PROVE』より引用)

国内ではボディサイズがやや大きいことや、水素ステーションの課題も踏まえると4大都市圏での販売がメインであり、ドライバーズカーとしての魅力も伝えたいところだろう。新たな価値観に挑戦する新型クラウンセダンは、クラウン開発の伝統的な思考「革新と挑戦」というワードが見事に当てはまるモデルというわけだ。

諸元

【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
(画像=『AUTO PROVE』より引用)