「免税事業者は取引を減らしていく可能性がある」

 インボイス制度をめぐっては、個人事業主が免税事業者を継続できるかどうかも焦点だ。植村氏の顧問先には納入先に「免税事業者を継続するのなら値引きをする」と通告された例も決して少なくない。独占禁止法違反の疑義がある行為だが、法令を知ってか知らずか、大手企業にも平然と値引きを要求する例が散見され、さらに従来の価格のまま取引量を徐々に減らされた免税事業者もいるという。値引き要求の相談を受けた植村氏は、どんな助言をしているのか。

「その取引先が事業の全売り上げのうち、どのぐらいの割合を占めているかで判断は変わる。例えば全売り上げの1~2割程度であれば免税事業者を継続し、その取引先については値引き要求に応じる、あるいはその取引先と今後取引をしない形でも事業に大きな影響はないと考えられるが、全売り上げの大部分を占めているのなら、課税事業者に移行したほうが良い旨助言している」

 あるサービス企業は免税事業者を2つに区分して対応した。フリーランスの事業者などに対しては全員に文書でインボイス登録を通知したが、あくまで「お願い」にとどめた。

「口頭でのやりとりも含めて免税事業者を継続する方に対して、発注単価の引き下げや発注量の削減をほのめかすようなことは、独占禁止法に反するので一切していない。従来通りの条件で取引を継続している」(サービス企業役員)

 大学教授や企業幹部などに対しては、インボイス登録を要請していない。法人化している人は登録しているケースが多いので対象外だが、個人事業主にも要請していない。理由は「その方でないとできない専門性が高い業務を委託しているから。代わりが利かないこと」(同)

 2つの区分の違いは、「条件をのめないのなら他の人に発注すればよい」と見なされる代替可能な発注先か、それとも「この人に引き受けてもらわないと困る」という希少性の高い代替不可能な発注先か。その違いである。

 おそらく経過措置(23年10月以降3年間は80%、26年10月以降3年間は50%まで適格請求書以外の請求書でも仕入税額控除が認められる)が過ぎれば、高い専門性やスキルを有する個人事業主でない限り、免税事業者の継続はいっそう難しくなっていくのではないのか。ある中堅企業もこんな方針を立てている。

「経過措置が過ぎれば税負担が発生するので、発注単価を下げることはしないが、これまで付き合いのある免税事業者でも取引を減らしていく可能性がある。その事態を想定して、インボイス制度開始以降は、新規の取引についてはインボイス登録を条件にしている」

 零細規模の免税事業者のなかには立ち行かなくなり、会社勤めに舞い戻る動きも出てくるだろう。この制度に潜む問題は何なのか。

「インボイス制度をめぐって今起きている問題は、免税事業者を廃止すればクリアになると主張する人もいるが、零細事業主が苦境に陥ることが懸念されるので、それをどうするのかという問題が残る」(植村氏)

「免税事業者を存続させたうえでインボイス制度を導入することに無理があったと思う。免税事業者を廃止しないとインボイス制度の運用がすごく複雑になってしまうが、免税事業者が厳しい状況に追い込まれてしまう。難しい問題だ」(中堅企業役員)

 経過措置期間にさまざまな問題が片付くことを望みたい。

(文=Business Journal編集部、協力=植村拓真/公認会計士・税理士)

提供元・Business Journal

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