88馬力エンジン搭載のスポーティな商用車
この連載においては第3回で、ハコスカ――C10型系日産スカイライン――の1.5Lモデルのカタログを採り上げているが、今回は、初期ハコスカのバンのカタログをご覧いただこう。
C10型系は、スカイラインを生んだプリンスが日産に吸収合併された後、初めてのモデルチェンジを受けて生まれたモデルで、スカイラインとしては三代目となる。1968年7月に発表、同年8月に発売されたのは、1.5Lの4ドア・セダンとバン、ワゴン(エステートワゴンと称した)という布陣であった。
基本となる4気筒モデルは、先代のコンセプトを受け継いだファミリー向けの小型セダンだ。スタイリングは筋肉の盛り上がりをモチーフにしたとのことで、全体が滑らかな曲線と曲面で覆われている。特徴的なのはリアフェンダーから前方に向けて走るプレスで、これを「サーフィンライン」と称した。これが以降のスカイラインの大事なアイデンティティとなったのは、広く知られている通りである。
搭載エンジンは先代末期に採用された1.5L OHCのG15型で、最高出力は88psと変わりないが、細部に変更が施され耐久性を増すとともに、数ヶ月前に発売されていた初代ローレル用のG18との部品共用化が図られている。トランスミッションは3速MTのコラムシフトを基本に、4速フロアシフトやBW製オートマチックも用意。サスペンションは、フロントが先代のダブルウィッシュボーンからマクファーソンストラットに一新され、これも以降のスカイラインの基本として受け継がれていくこととなった。リアは従来同様にリーフリジッドであった。
グレードは2種類、のちに1.8Lやフロアシフト車を追加
本題のバンについて述べると、先代のバンにおいては別車種スカイウェイとして発売されていたものだが、プリンスが日産に吸収された後の1966年10月、スカイラインのマイナーチェンジとともに車名をスカイライン・バンと改めており、三代目においてもこれを踏襲した形である。ボディ形状としてはセダンのリアオーバーハングとルーフを延長しリアゲートを設けたもので、全長はセダンより40mmほど長い。エンジンやサスペンション、トランスミッションなどドライブトレインも共通だが、シフトは3速コラムだけとなる。
グレードとしてはバン・デラックスとバンの2種類。前者はセダンのデラックス、あるいはエステートワゴンと同等の外観や装備を持つもので、フロントシートはセパレートのみ。細いラインが縦に2本入ったシートはスポーティデラックスあるいはエステートのそれと似たものだが、配色は異なる。バンはセダンのスタンダードに準じた外観や装備を具えたもので、フロントシートはベンチのみ。
以後の変遷は基本的にセダンのマイナーチェンジと歩を合わせたもので、1969年8月にはマイチェンとともに1.8Lモデルを追加(デラックスのみ)。1970年10月には1.5L、1.8Lともにリクライニングシート装着車をバリエーションとしてバン・デラックスに設定(それまでもオプションとしては用意されていた)。1971年9月のマイチェンでは、やはり両エンジンのバン・デラックスに4速MTのフロアシフト車を追加している。そして1972年9月、フルモデルチェンジで四代目へと移行した。
さて、ここでご覧いただいているカタログは登場初期のものであるが、表4には「(43.12)Ⅱ」と記されており、1968年12月に発行されたものと思われる(「Ⅱ」は改訂版ということだろうか?)。サイズは291×240mm(縦×横)、ページ数は表紙を含めて全16ページである。
C10型系スカイラインと言えば「愛のスカイライン」のキャッチコピーで知られるが、このカタログの時点ではそうしたイメージ戦略はまだ採用されていない。そのため、カタログ全体の作りも後のものとは雰囲気が異なる(確か、担当した広告社が「愛のスカイライン」時代とは違うはずである)。このカタログも決して悪いものではないが、いまひとつ、クルマの全体像が見渡せないような感じは否めない。また、レイアウト自体にも統一感やバランス感に欠けるところがあるように思われる。
……などと分かったようなことをつい言ってしまったが、そうしたことはまた脇に置いて、皆さんには初期ハコスカ・バンの味わい深い姿とディテールを堪能していただければ幸いだ。
文・秦正史/提供元・CARSMEET WEB
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